自動運転車開発、「死亡事故」で迎えた正念場 以前からの懸念が微妙なタイミングで現実に

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 3月19日、米アリゾナ州で配車大手ウーバー・テクノロジーズの自動運転車が衝突事故が起こし、女性1人が死亡した。写真はウーバーが開発中の自動運転車のカメラ。ペンシルバニア州ピッツバーグで2016年9月撮影(2018年 ロイター/Aaron Josefczyk)

[ワシントン 19日 ロイター] - 米アリゾナ州で配車大手ウーバー・テクノロジーズ[UBER.UL]の自動運転車が衝突事故が起こし、女性1人が死亡した。完全な自動運転車の事故で死者が出たのは初めてで、業界は消費者からの安全面への信頼獲得や規制緩和の実現で正念場を迎えた。

自動運転車業界が以前から懸念していた事態が、規制緩和への取り組みを進める微妙なタイミングで現実になった。ウーバーとアルファベット<GOOGL.O>傘下グーグル系のウェイモは16日、数週間以内に自動運転車の規制見直しを承認するよう求める書簡を上院議員に送ったばかりだった。

ウーバーやゼネラル・モーターズ(GM)<GM.N>、トヨタ自動車<7203.T>など自動車メーカーやハイテク企業は自動運転車技術に多額の投資を行っているが、その成否は免許を持つ人間が運転するという前提でつくられた現行の安全規則の大幅な見直しが実現するかどうかに掛かっている。

自動車やハイテク業界の幹部は、自動運転車の絡む事故が起きて死者が出るかもしれないと警告する一方、交通規則を守るようプログラミングされた自動運転車が普及すれば、ドライバーによるわき見運転や居眠り運転が減り、多数の人命が救われると主張している。

米国家運輸安全委員会の委員長だったマーク・ローゼンカー氏は19日、ウーバー車の事故に過剰に反応すべきではないと述べた。ローゼンカー氏によると、米国では年に600万件以上の衝突事故が起きて4万人近くが死亡し、歩行者の死者は6000人に上る。「自動運転車の安全性に対する信頼を取り戻すために、今回の残念な事件を乗り越えなければならない」と言う。

ウーバーは今回の事故を受けて自動運転車の試験を全て中止した。

事故の発生により、民主党議員の反対で行き詰まっていた自動運転車の試験走行加速に向けた法案整備は、進捗が一段と遅れたり内容が修正されたりする可能性がある。

上院商業科学運輸委員会のジョン・スーン委員長(共和党)は今回の事故について「自動運転車に即した法律や政策の必要性が浮き彫りになった」と述べた。

しかし同委員会のエドワード・マーキー委員(マサチューセッツ州、民主党)とリチャード・ブルーメンソル委員(コネティカット州、民主党)は、今回の事故には厳しい対応が必要だとした。

トランプ政権は自動運転車の規制緩和に取り組んでいるが、安全確保の重視も謳っている。チャオ運輸長官は1日、「安全を確保しつつ、規制は技術革新を妨げないという共通意識を醸成するのが目標だ」と述べていた。

ただ、全米トラック運転手組合(チームスターズ)は19日、ウーバー車の事故で「まだ確立していない技術を公道で試すことには大きなリスクがあるとはっきりした。歩行者とドライバーの安全がなによりも重要だ」とする声明を発表。

フォックス元運輸長官も、事故は自動運転車業界と政府に対して安全を最優先にするよう警鐘を鳴らすものだと指摘した。

(David Shepardson記者)

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