瀧本:現在、多くの日本の企業は、JTが過去にやってきたことを、早回しでやらないといけない状況です。JTの場合は、一歩一歩、着実に成功と失敗の経験を積み重ねる中 で、正解にたどり着けた部分もあります。今の日本企業は、JTが過去にやったことを一生懸命やっていますが、そんなスピード感では間に合わないでしょう ね。
筒井: 1999年の買収を手掛けたコアメンバーたちは、ものすごく勇気のある決断をしています。
そのひとつは、買収後、レイノルズインターナショナルにJTの意図をくんだ日本人を大量に送り込まなかったことです。最初に派遣された日本人はたっ た7、8人。JTはレイノルズに日本流マネジメントを押し付けなかったわけです。レイノルズにはすでに優秀な経営陣がいて、価値あるブランドがあって、世 界各国に展開しているのだから、日本からは、品質管理の手法や、R&Dの技術や、マーケティング投資のための資金を持ち込めば十分だという判断でした。
ただし逆に言うと、海外でタフなビジネスを担うスキルや経験を持った人材が、JT側に十分にいなかったことも事実です。現在、副社長を務める新貝康 司が「あれは貧者の戦略だった」と言っていました。人材がいないのはしょうがない、ただそこで動かなければわれわれの未来はない――そうした危機感があっ たのだと思います。そこが、ほかの日本企業との大きな違いのような気がします。
新しい「日本型経営」とは何か
瀧本:筒井さんが今、テーマにしていることは何ですか。
筒井: 日本の本社のグローバル化は、まだまだ発展途上です。虎ノ門にあるJT本社の組織と、ジュネーブのJTインターナショナルを中心とする海外の組織には、ま だ一定の距離感があります。せっかく私も7年間、ジュネーブの経営陣の近くで仕事をしてきましたので、会社としても私個人の興味としても、ぜひこの2つの プラクティスをうまく融合させたいと思っています。
瀧本:どちらかというと、日本本社の組織が、よりジュネーブの組織に近づいていくイメージでしょうか。それとも、現在のどちらの組織とも違う新しいものができるのでしょうか。
筒井:私は、どちらでもないものができるのではないかと考えています。日本側にもJTインターナショナル側にも、それぞれ長所と短所がありますから。
JTインターナショナルは、外資系に近くて、意思決定のスピードが早く、各自のジョブディスクリプションがはっきりしています。一方、日本の場合は、職務範囲の境目があいまいな分、若いうちからいろんな経験ができますし、人の仕事を若干取り込んできても、文句を言われないところがあります。特にJT固有のことかもしれませんが、経営陣と新入社員までの距離が、ジュネーブに比べると比較的近いのも特徴です。
私は、海外で経験したマネジメントスタイルと、JTがこれまで培ってきたスタイルの中間に、何か新しいものが生まれるのではないかと思っています。 それは、ある意味、新しい「日本型経営」みたいなものかもしれませんが、JTを通じて新しい経営スタイルを示せればいいなと考えています。
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