羽生結弦は「異次元のコミュ力」を持っている

「しゃべりながら、思考を整理する」

つまり、事象を単なる点で考えず、「それがなぜ、重要なのか」という背景や意義をつねに分析し、大局観のある説明のシナリオにしている。

そうした思考の中で、「金メダルの意義」や「獲得後のストーリー」をイメージし、モチベーションを上げていったとしてもおかしくない。

羽生選手は、アスリートを超えた表現者

3つ目のイメージ力はまさに、こうしたストーリーを創造する「想像力」でもあるわけだが、自分の目指す演技を可視化し、頭の中で描き出す力。「想像と一致させようとすると跳べる」と語っているが、思考の言語化を繰り返すことで、イメージがより鮮明に浮かびやすくなる。競技中の自分だけでなく、ファンや家族などをビジュアル化することで、大いに自らを奮い立たせてきたのだろう。

2月26日の合同記者会見での羽生選手(写真:REUTERS/Toru Hanai)

最後の「感情コントロール力」だが、これについては「期待される感覚が好き。それはプレッシャーじゃなくて快感」「主人公になりたいタイプ」と語っているように、緊張やプレッシャーを興奮に変えることができるタイプのようだ。

心を落ち着かせるとき、アドレナリンをポンプ注入するように興奮を呼び起こすときなど、まるで温度調節器のように、感情をコントロールすることが求められるわけだが、こうした制御力と表裏一体にあるのが驚異的な「憑依力」だ。

あるハリウッド俳優は、ひたすらに練習を重ねると、あるとき、「役」が天から降りてくる、と表現したが、羽生選手の演技には、いつも、何者かがとりついたような気迫が漂っている。光源氏か陰陽師、安倍晴明かわからないが、時にこの世の生き物ではないような、異次元のたたずまいを見せる。

「バレエやミュージカルのように、芸術とは、あきらかに、正しい技術、徹底された基礎によって裏付けされた表現力がないと、芸術として成り立たない」「スケーターって、『アーティスト』であり『アスリート』でもある。どっちの魂も捨てちゃダメなんだと思っています」と語るように、技術と芸術の双方を究めようとする姿勢は、単なるアスリートを超えたまさに表現者でもあり、「演じ切る」「演じ分ける」力を持つ数少ない希代のパフォーマーといえる。

そもそも、羽生選手のコミュ力の高さは、コミュニケーションにとって最も重要な「価値を読み取る力」、つまり、相手にとってどういった情報が価値を持っているのか、ということを瞬時にくみ取る「共感力」が極めて高いということに基づいている。

「これを言ったら、メディアが、国民が、ファンが喜ぶだろう」というツボを怖いほどに理解している。相手が聞きたいだろうと思うことをつねに届ける力、何が見出しになるかを予見する力、ユーモア、掛け合いをこなす瞬発力。どこをとっても、圧倒的な超越感を醸し出すコミュ力なのである。

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