住友林業「高さ350m木造ビル構想」の真意 「現代版バベルの塔」との揶揄を跳ね返せるか

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さて、住友林業は日本有数の歴史を誇る企業の一つである。1691(元禄4)年に始まった住友家による別子銅山の開発と、その備林経営をルーツとするからだ。現在はそれから327年目になる。

また、今年は1948(昭和23)年の財閥解体による同社の設立から70周年を迎えている。だから、この構想は「創業350周年の2041年までに目指す」ものであり、「高さ350m」は創業350年からきているのだ。

このため、高さ350mは象徴的なものに過ぎず、本来は「できるだけ高い木造建築物を目指す」くらいに認識すべきものなのだ。あくまで技術開発構想であり、現在の技術ではなく、23年後のそれによる実現を想定しているという点もミソだ。

もっとも、いくら23年後とはいえ、「耐震強度は大丈夫か」「構造体が腐ってしまいそう」「十分な火災対策はできるのか」などの疑問は当然出てくる。建築基準法などの法制度への対応も必要で、現行制度の変更を国に働きかける必要があるなら、それだけでも大変そうだと思われる。

試算では総工費は6000億円にのぼるとされ、約760億円ともいわれる「あべのハルカス」の建築費と比較しても大変高額だ。だったら、木造である必要はないだろうと見られる。なぜ、木造にこだわるのだろうか。

わが国の林業の置かれる状況

それは、わが国の林業の置かれる状況に由来している。日本は国土の約3分の1が森林であり、世界第2位の森林率(OECD加盟国)を誇るが、一方で国産材の自給率は約3割にとどまっているのだ。

山の荒廃のほか、林業従事者不足とその高齢化、生産性の低さによる国産材の国際競争力低下などの克服すべき課題を生み出している。国はそうした状況の改善の一環として公共建築物の木造化に力を入れ始め、2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を施行している。

その適用事例の一つが、2020年に開催される東京五輪に向け現在建設中の新国立競技場で、庇部分などを中心に木材が大量活用される計画であることをご存じの方も多いだろう。要するに、木材をより積極的に活用する機運が高まっているのだ。

それは国内だけにとどまらない。欧米では木材を主要構造材とした20階建て程度のビルが既に建設されるなど木造建築物の高層化が進み始めている。中国でもわが国の主要な住宅工法である木造軸組(在来)工法の導入が進められようとしている。

国内外での木造建築物のニーズの高まりは、木材が再生可能な資源であり、CO2を固定化できる環境負荷が少ない素材であることにも起因している。住友林業の木造超高層ビル建設構想は、地球温暖化対策の側面も含めた、木材活用推進の時流の中で登場したものともいえる。

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