表参道に群がった巨額資金、都心不動産バブル”宴の後”
東京・表参道は都心ミニバブルの象徴ともいえる地区だ。目抜き通りに高級ブランド店が立ち並び、2006年2月には大型施設「表参道ヒルズ」も開業した。この“ラグジュアリー”な一帯をめぐり、不動産売買の“錬金術”が繰り広げられ、巨額の利益がプレーヤーの下に吸い上げられていった。が、昨秋以降のバブル崩壊で街には数多くのつめ跡が残される結果となった。
目抜き通りから脇道に入ると、それらは至る所に見られる。たとえば、神宮前4丁目9番地。1ブロックは約70メートル四方。現在そこの南北を貫いて大きな空き地が広がり、周りを白い鉄板が囲う。以前は低層マンションと商業ビルがあった。不動産登記簿によると、この土地の地上げに入ったのは「明治建物」という大阪の不動産業者。京阪神地区で小型マンションを手掛けていたほとんど無名の業者だが5年ほど前に東京へ進出。表参道地区の地上げで華々しくデビューした。件(くだん)の土地を取得したのは06年9月のことだ。
低層マンション部分の以前の所有者は「アリア神宮前」という特別目的会社(SPC)だった。エクイティ(資本)の主要出資者は香港資本系列で東証1部に上場する東海観光。シニア(負債)の主な貸し手は香港上海銀行とみられる。取得は02年6月のこと。明治建物への売却により、東海観光は出資元本の5割近い売却益を手にすることとなった。
バブル期特有の行動だが、明治建物はこの土地についてわずか5カ月後に転売契約を結ぶ。契約先は「ATCS11」。これもSPCだ。主要出資者はジャスダック上場のヒューネット。数年前から赤字続きで、頻繁に増資を繰り返すなど、株式市場では仕手銘柄として知られる会社だ。一時は液晶ビジネス強化を打ち出していたが、外資ファンドと提携して不動産事業に回帰している。
転売契約の過程で土地の評価額はさらに値上がりした。明治建物が金融機関から取り付けた抵当権設定額は約105億円。これがATCS11になると135億円にハネ上がった。もっとも、転売話は07年4月になってなぜか解除されている。同年3月決算でヒューネットは374億円もの最終赤字を計上。そのことが影響したのかもしれない。
ただ、明治建物は代わりの転売先をすぐに見つけている。解除と同時に土地の権利を信託受益権化し、別のSPCに売却したのである。信託受益権は不動産から上がる収益を獲得できる権利のことで、ここ数年その活用が急速に拡大している。売買時に必要な不動産取得税などが節税できるからだ。
無名業者の資金パイプ アトリウムの後ろ盾
注目すべきは、どこが無名の明治建物をバックアップしていたかだ。100億円超の抵当権を設定していたのはクレディセゾン系の東証1部上場企業、アトリウムだった。同社は柱の一つとして04年9月に不動産融資保証事業に参入、その残高を2358億円(今年5月末)まで急速に積み上げた。融資実行は金額ベースで9割以上がクレディセゾン。「案件の100%近くはアトリウムで営業して持ち込んだもの」(藤田卓志アトリウム常務執行役員)という。
近隣においてアトリウムは明治建物に対して、ほかに少なくとも3カ所の取得で90億円近い融資保証をした。さらに「ATCS12」という別のSPCの取得物件に127億円の抵当権を設定するなど、表参道の地上げで主要な資金供給源だったことがうかがわれる。