日銀は「出口戦略」をコッソリと始めている 木内登英・前日銀審議委員が分析
マイナス金利政策の導入後に湧き起こった各方面からの強い批判を、日銀は史上空前の逆風と感じたと思う。
そうした状況を受けて実施されたのが、2016年9月に発表された「総括的な検証」と、短期金利に加えて長期金利も操作する「イールドカーブ・コントロール」の導入だった。
これは、①金融機関の収益見通しを悪化させる長期・超長期金利の過度の低下を抑え、金融機関との関係修復をめざす、②国債買い入れ策の持続性を高める、という2点を意図した枠組みだったと考えられる。
その政策をひとことで表してみよう。それ以前の政策を、多様な手段で金融緩和を推し進める「攻めの政策」と呼ぶなら、ここからは「守りの政策」だ。
守りの政策のもとでは、よほど経済環境が悪化しないかぎり、追加緩和措置は見送られる。2017年に政策変更がなかったことには、そうした背景がある。
2016年9月、こうしたレジームチェンジが行われたのだが、そこにはもうひとつ、重要なポイントが含まれていた。
それはイールドカーブ・コントロールの導入時、国債買い入れの増加ペースが政策の操作目標から外されたことである。それにより国債買い入れの決定権は、政策委員会から現場のオペレーションに移った。
このことは現場主導で事実上の金融政策正常化(出口戦略)を進めることができる環境が整えられた、ということを意味している。
実際、買い入れのペースは以前よりも抑制され、日銀が保有する国債残高の増加額は縮小している。2016年9月には増加額のめどとして「年間80兆円程度」という数字が示されたが、現実の増加額は、2017年12月には、1年前との比較で58兆円となっている。
直近では、保有残高の増加額は「年間80兆円程度」というめどに対して、年率換算で年間50兆円前後のペースになっているだろう。
もしも日銀による国債買い入れが限界に達し、国債の流動性が極度に低下したら、金融市場はパニックになる。国債の買い入れペースの抑制により、そのリスクはひそかに軽減されているといえる。
金利目標は10年から5年に短期化へ
2018年にはこうした措置の延長線上で、現場主導での事実上の正常化策がさらに進められると見ておきたい。
筆者が望ましいと考え、また2018年に実現可能性が相応にあると見られるのが、金利目標を10年から5年にする短期化措置である。目標の短期化によって長期金利のコントロール力が高まり、国債買い入れ増加ペースをより着実に縮小させ、買い入れの限界を回避することができる。
ただし、金利目標を短期化してもその水準を0%で変えなければ、「政策変更ではなく技術的な調整である」と日銀は説明することができるだろう。そのため、このやり方は2%の物価目標との整合性が問われないという利点もある。それでもこれは、紛れもなく事実上の正常化策なのである。
またこの措置によって、5年以上の金利を上昇させ、イールドカーブをスティープ化(長短金利の差が大きくなり、イールドカーブが右肩上がりになること)させることを通じて、金融機関の収益を改善させることもできる。
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