日銀は「出口戦略」をコッソリと始めている 木内登英・前日銀審議委員が分析

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日銀は2016年9月の「総括的な検証」のなかで、長期・超長期金利の低下が経済に悪影響を与えることを初めて認めた。それは生保・年金の資産運用を悪化させ、銀行の利ザヤを縮小させて金融仲介機能を低下させてしまうためである。

しかし10年金利を政策の目標としている限り、長期・超長期金利の上昇余地は限られ、金融機関の収益改善は実現できない。その意味でも金利目標の短期化は必要なのだ。

他方、金利目標を10年から5年へと短期化する措置は、金融市場において、事実上の金融政策正常化ではないかとの見方が浮上すれば、為替市場では円高が進むだろう。

債券市場はすでに2016年9月以降、事実上の正常化が進んでいるとの認識を持っているため、この措置に過剰に反応することはないとみられる。しかし為替市場は債券市場よりも海外プレーヤーの比率が高い。彼らはこれまで日銀の政策意図を十分にとらえてこなかったため、金利目標の短期化は大きなサプライズとなるだろう。

もし日銀が円高を恐れて事実上の正常化をためらえば、日本経済は円高どころではない多くのリスクを中長期的に抱えてしまう。異例の金融緩和が長期化した結果、もはや無傷での正常化を望むことはできない。ある程度の円高リスクは甘受すべきではないか。

政策正常化と引き換えとなる銀行リストラ

最後にもうひとつ、今後の金融政策と絡んだ注目点を挙げておきたい。

日銀は2017年10月、半期に一度の金融システムレポートで、銀行の低い収益性に焦点を当て、そのビジネスモデルに根ざした問題点についても指摘した。これは通常と比べてかなり踏み込んだ内容だといえる。

このレポートはもちろん、日銀は銀行の収益力に配慮して、金融政策のさらなる正常化を進める考えを持たないという意味ではない。

日銀の真の意図は、すでに大手銀行では始まっている構造改革が、地域銀行も含めて広範囲かつ持続的に進められるのであれば、金融政策も銀行の収益性に配慮して運営するという、一種の交換(トレード)を示唆することではないか、と筆者は受け止めている。

金融政策正常化の過程で金利が回復すれば、金融機関の収益は改善する。日銀は、こうしたことは銀行自らが身を切る構造改革とのセットでなされるべきだと考えているのではないか。

今後、政策の正常化は安易な銀行救済につながりかねないという見方も出てくるかもしれない。そのときには日銀だけではなく、世論からも銀行の構造改革に対する圧力が高まってくるだろう。

木内 登英 野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト

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きうち たかひで / Takahide Kiuchi

1963年生まれ。1987年早稲田大学政治経済学部を卒業、同年野村総合研究所入社。一貫して経済調査畑を歩む。1990年野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年野村證券に転籍し、2007年経済調査部長。2012年7月~2017年7月、日本銀行政策委員会審議委員。現在、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『金融政策の全論点』(東洋経済新報社)、『異次元緩和の真実』(日本経済新聞出版社)。

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