完全飽和の私大600校を襲う大淘汰の幕開け 18歳人口の減少が2018年から再び加速
私立大学の典型的な収支構造は、半分強の学生等納付金、1割程度の補助金、残り大半が事業収入という収入構成に対し、人件費が5割、教育研究経費が3割強、管理経費は1割を占めている。
収入のうち、財政難の国からの補助金は、これ以上の増額が見込めない。収入の柱である学納金を増やすには、学生数が減るなら単価である授業料を値上げするしかない。ただ、「米国の大学と比べて日本の私大の学費は安いが、デフレ下の日本で学費値上げを本当に打ち出せるのか」(大手私大幹部)と、難色を示す私大が多い。一方、費用の5割を占める教職員人件費を削るのは企業のリストラほど簡単にはいかない。「入」も「出」も、にっちもさっちもいかない状態にあるのが今の私立大学の財務状況だ。
文部科学省の私大担当者の頭をよぎるのは、数年前の苦い記憶だ。群馬県高崎市で創造学園大を経営していた堀越学園が、理事長のワンマン経営による拡大路線の末に経営破綻。2013年に文部科学省が異例の解散命令を出す事態に至った。在学中の学生そっちのけの混乱が繰り広げられ、私立大の経営破綻時の処理が真剣に検討される、1つのきっかけとなった。
文科省は2016年から2017年にかけて、有識者を集めて「私立大学等の振興に関する検討会議」を開催。経営困難に陥る私立大が続出することを想定し、大学間の相互扶助や学生の転学支援を検討する必要がある、と提言した。その後、中央教育審議会の将来構想部会において、国公私立大の枠を超えた、さまざまな大学間連携・統合のあり方も議論されている。
大学の淘汰時代の幕開け
「早慶GMARCH」のように、在学する学生数が8000人を超える大規模私立大(58校)と、4000人以下の小規模私立大(456校)との経営、体力格差はますます広がっている(学校数は私学事業団、2016年度)。
「『東京大学が滑り止め』という優秀な(日本人の)高校生が登場し、アジアで欧米大学との獲得競争も起きている」(法政大の田中優子総長)とし、大学経営の視点をグローバルに広げようとしている上位私大と、国内でいかに生き残りを図るか、四苦八苦している下位私大を同じ枠組みで議論するのはなかなか難しい。
私大の再編や譲渡で企業と異なる点は、学生という特殊なステークホルダーの存在だ。私大同士の合併も、カリキュラムや学生の質が異なることが多く簡単ではない。
経営の苦しくなった地方の私大を自治体が引き取って公立大学化する動きも出ている。長野県の諏訪東京理科大学のほか、新潟県柏崎市の新潟産業大学が公立大学法人化を検討している。私大より授業料が安いため、公立化した大学は学生の人気を集めているが、赤字を税金で付け替えているともいえ、一時しのぎにすぎない。
定員割れ大学が私大全体の4割を占めるようになって久しい。完全に飽和した状態で教育無償化に関する詳細な制度設計の議論がスタートする中、この2018年はもう避けられない大淘汰時代の幕開けとなる。
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