リニア新幹線「2027年開業」が難しすぎる理由 開業遅れると全国のプロジェクトが大混乱?

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試験走行のスケジュール感について、JR東海の柘植康英社長は「工事が完成した箇所から随時試験走行を行う」としている。トンネル工事が早期に竣工する区間であれば、ガイドウェイ設置後に十分な試験走行は行えるだろう。だが、南アルプストンネルは試験走行の期間が短くても大丈夫、という保障はどこにもない。

試験走行には車両の運行だけでなく信号やポイントの動作確認、さらにダイヤ通りに運行するための乗務員訓練なども含まれる。だとすれば、全線を通した試験走行の時間は十分確保する必要がある。短い期間で試験を行いつつ、安全性をどう担保するか。JR東海は難しい選択を迫られる。

万が一開業が2028年以降にずれこんだ場合、どのような影響が出てくるのか。まず考えられるのが、現時点で最短で2037年に予定されている大阪延伸への影響だ。当初の計画より開業時期を最大8年間も前倒しした大阪延伸だったが、スケジュールが圧迫されれば再び「後倒し」となる可能性もある。

開業が遅れた期間だけ本来リニアが稼ぎ出すはずだった運賃収入を逃すことになる。国からの低利融資である財政投融資が3兆円入るとはいえ、ただでさえリニア建設に伴う巨額負債を抱える同社にとって、これ以上財務に負担をかける事態は避けたい。

2027年に各地のプロジェクトが動き出す

開業の遅れで困るのは事業主のJR東海だけではない。沿線自治体の計画も、すべて27年を念頭に進んでいるからだ。リニア新駅が設置予定の神奈川県相模原市、山梨県甲府市、長野県飯田市、そして岐阜県中津川市では、リニア開業に連動した都市計画が進んでいるが、どれも2027年をベンチマークにしている。

甲府市の場合、昨年3月に「甲府市リニア活用基本構想」を策定した。計画期間は開業予定年である2027年。企業誘致やインバウンドの集客、さらに品川までリニアで25分という立地を生かし、都市圏からの移住定住をにらんだ政策を打ち出す。

とりわけ影響が大きいのが、始点の品川駅と終点の名古屋駅だ。品川駅周辺ではJR東日本や私鉄各社、デベロッパーなどによる再開発工事が多数計画されている。名古屋駅でも、名古屋市が同駅を国際ターミナル駅にする計画を立てている。もちろんリニアの開業が大前提だ。地元の名古屋鉄道も名鉄名古屋駅周辺の再開発に乗り出しているが、これも「駅機能についてはリニア中央新幹線開業時を目標」に進めるとしている。リニアの開業が遅れた場合、これらすべての計画の目算が狂う。

いくつものハードルを無事に乗り越え、予定通りリニアを開業できるか。JR東海にとって綱渡りの日々が始まる。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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