ここの市長選が行われるというわけですから、「こんなことをやっちゃった現市長は当然退任、反対派が改革の「のろし」を上げ、圧倒的に優勢になっているに違いない」……と思ったら、やっていることはワタクシに言わせればハチャメチャです。
立候補者は3人で、いずれも無所属。現職の楢原利則市長は、もともとは市役所職員出身。副市長を経て当選を果たし、2期市長を務めましたが、今回は「健康上の問題」を理由に不出馬です。事実上の後任に指名された大久保勉候補は、前民進党の参議院議員。金融業界などを経て、参議院議員を12年務めた地元久留米出身の人物です(ほかには、元久留米大学教授の宮原信孝氏、元三菱商事社員の田中稔氏が出馬)。
ところが、この大久保候補に、市長、久留米商工会議所、市議会などが事実上、相乗りしているというではありませんか(宮原氏はかつて自民党公認を受けたこともある保守系候補。地元の自民党支部は自主投票の見通し。なお、同氏は前回の市長選でシティプラザなどの建設中止を訴え、健闘したが落選している)。
いろいろ聞いてみると、「旗振り役」は商工会議所のようですが、いずれにせよ、いくら地方都市の市長選とはいえ、自民党が強固な地盤を築く場所で前民進党の国会議員に「多くの既得権勢力」(少なくとも「墓標」久留米シティプラザを誘致した勢力)が相乗りしている、という構図には目を覆うばかりです。シティプラザへの反省などは、いまのところかけらも見られません。
大久保氏は1月12日の公開討論会でこういった趣旨の発言をしています。「市の負担は175億円の3分の1以下だし、調査によると経済効果は327億円ある。経常益は23億円のプラスだ。シティプラザができることによって近くにマンションが建ち、街もにぎわい、固定資産税も増える。公設民営化では民間はもうからないことはやらないが、文化・芸術にはおカネがかかる。たとえ赤字であっても文化・芸術にはおカネをかける。しかし人が集まれば、お土産などを買うので元はとれる。作ったものは壊さずしっかり活用していく」。
ナイキの靴も!久留米は、福岡を凌駕する勢いがあった
ワタクシからすれば、もはや180億円弱で建てたシティプラザの「後始末」を、さらに税金で負担することが「決定的」です。これに対し、久留米市民が将来を見据えてどういう決断をするのか、非常に興味を持ってみているわけであります。ある意味、「今後の日本における地方都市運営の未来が占える」、と言ってもいいかもしれません。
久留米という都市は今では想像もできませんが、1970年代には福岡を凌駕するようなそれはすごい勢いがありまして、ブリヂストンなどが出てきたように、日本のゴム産業の中心地でありました。ちょうど東洋経済新報社から翻訳出版されている『SHOE DOG(シュードッグ)』(ナイキの創設者、フィル・ナイトの自伝)にも、久留米は登場します。
ナイキの靴は久留米で作っていたんですね。それがいつの間にやら衰退を重ね、「福岡のベッドタウン」に成り下がり、とんでもない墓標まで立ててしまい、それでもこれまでの政治手法を否定できないとすれば、日本の地方都市には未来がない、と言って過言ではありません。
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