リニア駅決定に見る、JR東海の台所事情 着工へ一歩前進も、巨額負担がのしかかる

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コスト抑制を徹底

自治体ごとに明暗が分かれた中間駅の設置場所だが、どのような経緯
で決まったのか。

整備新幹線建設に際しては、国や沿線自治体も建設費用を負担することが法律で定められている。自治体側も資金を出す以上は、駅設置について口も出す。だが、リニアについては沿線自治体が多額の費用負担を嫌ったため、JR東海が建設費用を全額負担することになった。したがって、ルートや中間駅はJR東海にとって望ましい形で策定できた。

そもそも、品川―名古屋間を最短の40分で結びたいJR東海にとっての大前提は「東京と名古屋をできるだけ直線でつなぐ」こと。それは時間短縮だけでなく、建設費の圧縮にもつながる。中間駅の周辺に住む利用者にとっては在来線との接続も重要な要素だが、そこはばっさり切り捨てた。

建設費を少しでも減らすため、中間駅の位置選定に当たっては高速道路や国道への近さも考慮した。建設作業車の移動のしやすさを考慮してのことだ。

中間駅の構造を売店も待合室もない簡素なものにするのもコスト圧縮を狙った結果だ。追加設備が必要なら地元負担で設置することになる。

JR東海がシビアな姿勢に徹するのは同社の苦しい台所事情ゆえ。前
2013年3月期の純利益は1999億円で最高益を記録し、今期も2期連続で最高益を更新しそうな勢いだ。だが、柱の東海道新幹線はすでにフル回転状態で、増発の余裕はない。景気が上向いても、新幹線の運賃収入増には限界がある。一方で、今後は完成したリニア実験線の減価償却費や新幹線の大規模修繕費が業績の足かせとなる。

来期に着工となれば、借入金も増える。JR東海はピーク時の負債総額を5兆円と試算している。景気回復で金利が上昇すれば、利払い額の増加というリスクもはらむ。もし金利が1%上昇すれば、利払い額は年500億円膨らむ。今後の収入急拡大が見通せない中で、費用は確実に膨らんでくる。

金子慎・副社長は「景気の見通しはわからない。われわれは予定どおり進めるだけだ」と語る。騒がしい外野の声をいなしながら、どこまでコストを抑えられるか。JR東海の手綱さばきが問われている。

週刊東洋経済2013年10月5日号 撮影:尾形 文繁)

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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