アマゾンが取引先に課している「冷酷な条件」 合理性を追求した徹底したロジカル経営

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書店に限らず、「いつもお世話になっているから」と取引先に気を遣い、義理人情をもってビジネス判断を下すのが日本の商慣習です。しかし、そんな平和な日本のビジネスの世界に、アマゾンが本気の資本主義をもって乗り込んできたのです。

何十億という決裁権を持ったアマゾンの人間は、「この条件で承諾いただけないのであれば、契約は破棄させていただきます」と言って、平然と取引を打ち切っていきます。義理人情がまったく通用しない、アマゾンの徹底した合理的なやり方は、日本企業には衝撃的でしたが、アマゾンとの取引額が1000億円という巨額の規模になってくると、どんな不都合な条件も呑まざるをえないのです。

なぜそこまで「冷酷」になるのか

このように、アマゾンとかかわる取引企業からすれば、合理的すぎるアマゾンのビジネスのやり方が冷酷に見えるのも仕方ありません。しかし、アマゾンがこうした合理主義を徹底するのは、アマゾンが「顧客至上主義」を大切にしているからなのです。

『なぜアマゾンは「今日中」にモノが届くのか』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

アマゾンのビジネスの判断基準は「それが最終的に顧客のためになるか」です。そのため、一見冷酷なやり方であっても、データと数値をもって完璧にマージンコントロールを行うことで、その利益をどこよりも「速く、安く、高品質の」サービスという形で顧客に還元しているのです。

アマゾンの取扱商品が増大する昨今、アマゾンの強大化を危惧している企業は多いでしょう。しかし、この徹底したアマゾンのロジカル経営と組織文化は、一朝一夕でまねできるものではありません。

真っ向からアマゾンとぶつかっていくのではなく、アマゾンの「顧客至上主義」という考え方を取り入れつつ、長年培ってきた自社の強みや、新たなビジネスの種を見つけ、磨いていくことが大事なのではないでしょうか。そうすれば、アマゾンにすべての顧客を奪われることはないでしょう。

林部 健二 鶴 代表取締役

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はやしべ けんじ / Kenji Hayashibe

米系ラグジュアリーブランドにてBDを経験後、2001年アマゾンジャパン立ち上げへ参画。サプライチェーン部門、テクニカルサポート部門責任者を歴任し、立ち上げからの約10年間アマゾンジャパンの成長に貢献する。その後、大日本印刷、ドコモが出資するオンラインベンチャー企業及び大手ワイン会社にてEC部門を統括。2014年株式会社鶴を設立。欧米企業のEC事業管理手法をベースに、数々の企業にて日本のオンラインマーケットに合ったEC事業運営を構築、コンサルティングを行う。

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