日本電産の東洋電機TOB提案、裏側には永守流“したたかさ”も
東洋電機製造に対するTOB(株式公開買付)を通じて、鉄道機器用モーターに本格参入をもくろむ日本電産。16日に行われた会見で、日本電産の永守重信社長は「鉄道機器事業は非常に将来性が高いビジネス」と、マーケットの高い将来性を参入の理由としてあげた。
日本電産は、世界の鉄道市場が約16兆円、その部品市場が約4兆円と試算している。既存マーケットが巨大なだけでなく、「石油価格の高騰や環境問題への対応で、鉄道モーターの必要性が前倒しのところにきている」と永守社長は説明する。欧米の車両メーカーを中心に環境面への対応が急速に求められていることから、同社が手掛ける省エネタイプのモーター(=ブラシレスモーター)の参入余地が充分にあると見ているようだ。また、同社は現在自動車分野の事業を拡大していることもあり、「自動車と鉄道分野の技術が共有できる」と、技術面でもシナジー効果があると判断した。
永守社長は鉄道モーターに10年以上前から興味を持っていたが、鉄道分野への参入は当面先になるとの見方があった。6月24日に開催された株主総会後の記者会見でも次のように語っている。「(売り上げ目標を2012年度3500億円とする)自動車分野の育成が先決。鉄道分野への参入は、その後になるでしょうね」。
では、なぜ、このタイミングで東洋電機製造に買収を提案したのか。永守社長は16日の会見で「タイミングについては、いい時期にきている」とした。この言葉の真意は、東洋電機側の環境に隠されている。
東洋電機は原材料価格の高騰などにより収益力が低下している。目下のところ、今09年5月期を最終年度とする中期経営計画を進行中だが、計画目標である営業利益45億円には大きく届かない厳しい状況だ(営業利益は08年5月期実績が13.9億円、09年5月期会社予想が20億円)。3年前には800円を超えていた株価も業績と並行して下降線の一途で、12日時点では終値305円と低迷していた。
日本電産は今回のTOB価格を305円から2倍以上の635円に設定しているが、全株式を取得しても約300億円に過ぎない。業績が絶好調のうえ、手元資金1000億円を誇る同社にとっては、「安い買い物で、株価の低い今が買い時」と判断したとしてもおかしくはないだろう。
マーケットの流れを見据えながら、買収側の経営環境を的確に見極める。今回の買収提案の裏側には、永守社長流の“したたかさ”が隠されている。
(梅咲恵司 =東洋経済オンライン)
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