ロシア主導でシリアの和平は実現するのか クルド人問題で意見割れるイランとロシア
アサド氏が、対立する勢力との和解に前向きであるという兆候は何もない。またシリア内戦によって、アサド政権にとってロシア以外の重要な同盟相手であるイラン、そしてイラン革命防衛隊の中東地域における影響力拡大が可能になった。イラン政府は、シリア内戦がどのように決着しようと、この成果が損なわれることを望んでいない。
アサド政権の維持という点では密接に協力してきたイランとロシアだが、ここに来て両者の意見が分かれ、ロシアの政策が困難になる可能性もある。
現在、シリア国土の最大部分を支配しているのはアサド派の勢力であり、これに続くのが米国の支援するクルド人民兵組織だ。クルド人勢力は、シリア北部・東部の大部分を支配下に置いており、シリア政府との敵対より自治権の確立に関心を注いでいる。
アサド政権に抵抗する反体制派は、散在する支配地域を死守している。北西部のトルコ国境、南西部のイスラエル国境、そしてダマスカス近郊の東グータ地区である。いま最前線となっているのは東グータ地区と北西部だ。
「イラン革命防衛隊が、自分たちこそシリア内戦の勝者だと確信しているのは確かだ。イラン国内の強硬派は、アサド政権との共存で頭がいっぱいで、それを考えると、実のある進捗(しんちょく)は期待しにくい」と、元シリア駐在デンマーク大使のロルフ・ホルンボエ氏は指摘。
「アサド氏は、実質的に権力分有が生じるような政治的解決策は絶対に受け入れないだろう。受け入れられるとすれば、おそらく現状凍結だけだ」と同氏は語る。
国際社会の「シリア危機疲れ」
内戦がアサド政権有利に傾いたのは、2015年にロシアがアサド氏支援のために空軍を派遣してからだ。
今年、アサド氏にとってはさらに有利な材料が重なった。ロシアはトルコとの合意に達し、また、米国とヨルダンとは南西部での停戦に合意したことで、間接的にアサド派の東部への影響力拡大を助ける結果となった。さらに、米国政府が反体制派への軍事支援を停止した。
アサド体制の打倒は不可能に思われるが、西側諸国の政府は、復興支援を「真の体制移行」につながる信頼性の高い政治プロセスにリンクさせることで、変革を実現したいと願っている。