「食べ物というより生き物。それだけ繊細なので、見よう見まねで作れるものではない。高級食材を集めた高級パンはよそにもあるが、ここまでの口どけは他では作れない」と、阪上代表は言う。
繊細なだけに、管理にも気を遣う。各店月に一度の頻度で本店にパンを送らせ、味にぶれがないかをチェック。さらに店舗責任者の会議も毎月開き、各店の取り組みなどを確認するという。製造責任者も年に2回、工場で工程などの確認作業を行っているそうだ。
食べることに苦労した子ども時代
阪上代表の実家は米屋だったそう。しかし、自身が小学校6年生のときに経営が傾き、食べることに苦労した経験を持つという。だから、飲食店の経営においては、少しでもコメを広められたらと、焼き肉などご飯を食べてもらえるジャンルを意識して手掛けたそう。特に子どもには好きなだけ食べてほしいという思いがあったので、バイキングをメインに展開したという。しかし、台風やBSE問題など社会情勢に大きく影響される、薄利で苦しい商売だった。
「しっかり儲けなければ社員にボーナスも出せないし社会にも貢献できない。いつかは世情に左右されない商売をしたい」。そんな思いを長年持ち続ける中、老人ホームの慰問でパン作りを思い立ったわけだが、当初は「米屋の息子がパン屋なんて」と申し訳なさもあったそう。
こうした経緯があるからこそ、食パンの美味しさはもちろん、イメージにもこだわった。飲食店経営の苦労から、「長く愛されるのは、老舗で強い一品があるところ」と確信したため、老舗のような雰囲気を大切にしているという。たとえば、お土産としても利用してもらいたいので、老舗の和菓子屋のような紙袋を採用。狙いどおり、今、お土産や差し入れとしても重宝されている。
店舗の立地選定も独特だ。乃が美の店舗の大半は、ひっそりとした裏路地にある。家賃が安いというメリットもあるが、「本当にうまいものがある老舗には立地が悪くても人が来る」と信じるから。行列ができたらその人だかりが道行く人に見えるような場所を狙うという。
打つ手打つ手が当たっているように見えるが、最初から順風満帆だったわけではない。オープン初日はわずか30本しか売れないという厳しい出だしだった。「自分で『高級』って言ってるよ」「800円のパンなんか誰が買うのか」と、客にも身内にも笑われたと阪上代表は振り返る。
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