米国の北朝鮮政策を左右する「報告書」の存在 日本の「外交安保」はどうすべきか
この報告書は北朝鮮の保有する軍事能力について、数字を挙げながらシミュレーション結果を記述する。60ページ余りの報告書のポイントは次のくだりにある。
「北朝鮮は1分間に1万発の弾頭を打つ軍事能力を持つ」「たとえ通常弾頭であったとしても戦闘の最初の数日で3万人から30万人の犠牲者が生まれると予測される」「エスカレーションが生ずれば南北双方の犠牲者数は2500万人に達する」「在韓米国人も10万人から50万人がその内訳に入るだろう」「日本への攻撃も歴史的経緯からすれば無視できない。首都圏だけで3800万人の日本人が移住する」「ジェームズ・マティス米国防長官は、サージカル・ストライク(外科的攻撃)を行ったとすれば、現役世代が知る最も過酷な戦闘状況となろうと述べた」
公開されているこの報告書は、米国の先制攻撃により北朝鮮の軍事能力が完全に破壊されたとしても、当初の数日間に生ずる犠牲者と同盟国における被破壊状況について、その推計の幅を示したものである。
「対北朝鮮」7つの選択肢とそのリスク
この報告書を用意するにあたり、CRSは以下の7つの選択肢とそのリスクとをとりあげて検討した、としている。われわれ日本人も、米国が外交政策を考えるうえでの「幅」を知ることは重要だ。
(1)軍事的な現状維持
(2)封じ込めと抑止をさらに強化
(3)米国を脅かす弾頭運搬手段の獲得に至っていないとの認定
(4)ICBM(大陸間弾道ミサイル)の除去
(5)核能力の除去
(6)北朝鮮のレジーム・チェンジ(金正恩=キム・ジョンウン=体制の除去)
(7)米軍の朝鮮半島からの撤兵
さらに議会人は、次のような関連事項について自らの立ち位置を決めざるを得ないだろう、とCRSは予想する。
(1)北朝鮮への軍事対応に伴うリスクの量と幅
(2)軍事力の使用と米国にとっての戦略的目的達成との関連
(3)軍事力行使を正当化するか否かについての議会の対応
(4)軍事的破壊の後の朝鮮半島の復興費用発生とその負担
(5)地域的安保体制への影響、米軍駐留の意味の変化は生ずるのか
(6)朝鮮半島に反米意識の高まりがあるとすれば、他のシアター(戦闘想定地域)への影響、また非常事態が生じた場合の軍事力展開への影響
このCRS報告書は、トランプ政権の北朝鮮政策に影響を及ぼしている、と考えざるを得ない。いわば米国の民主主義制度の厚みが、大統領を教育するという側面を、われわれは観察しているのかもしれない。