所得1億円超の金持ちほど税優遇される現実 所得税は60年以上も歪められ続けている

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所得税の空洞化につながっている最高税率の引き下げや株式譲渡益への低率課税の状況を見ていこう。所得税は、所得が多いほど適用税率が高くなる「超過累進課税」により、バブル期の頃まで税収は着実に増えていた。

当時は税率の区分が小刻みで、バブルが始まった頃は15段階あった。そのため所得増加に伴う重税感が募り、1987年、1988年、1989年と相次いで「税率構造の圧縮」が行われ、最高税率は70%から50%へと引き下げられた。

さらに、バブル崩壊と平成大不況に見舞われていた1999年には税率が4段階(10%、20%、30%、37%)まで圧縮されたが、その後の「国と地方の税源をめぐる三位一体改革」や旧民主党などの連立政権下での税制改正により、今日、税率区分は7段階となり、最高税率は45%に戻っている。しかし、ピーク時(1983年以前)の75%より30ポイントも低い。

所得税は、所得が増えるにつれてより高い税率が課せられる超過累進課税だから、税率構造の圧縮や最高税率引き下げは高所得層(富裕層)には減税効果が大きい。そのため、富裕層や個人事業者に多い申告所得税の税収はピーク時(1990年度)に7兆2168億円だったのが、1999年度以降はほぼ2兆円台で推移している。これが所得税収減少の最大の要因である。

こうした状況を踏まえ、内閣府による2009年度『年次経済財政報告』の「税・社会保障による所得再分配」の項には、税による所得格差の改善度が下がっている原因についてこう書かれている。「税については、所得税負担軽減の一環として行われた所得税の最高税率の引き下げや税率のフラット化など、近年の税制改正の影響などによって、その再分配機能が低下したためと考えられる」。

半世紀以上も歪められたままの税制

所得税空洞化のもう1つの要因は、株式譲渡益や配当所得など富裕層に偏っている金融所得に対して、10~20%という低率の「分離課税」が続いていることだ。所得税は、あらゆる所得を合算して、それに超過累進税率(現在の最高税率は45%)を課す「総合課税」が基本である。しかし、金融所得については、「株式市場活性化のため」といった理由で、長年、申告分離課税あるいは源泉分離課税が定着しており、所得税の所得再分配機能を弱める典型的な「不公平税制」になっている。

戦後間もない1949年、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が米国から招聘したカール・S・シャウプ博士(コロンビア大学教授)ら7人の財政学者・経済学者から成る日本税制使節団がまとめた報告書、いわゆる「シャウプ勧告」は、「日本の税制の憲法」とも称せられ、「税負担の公平性」を第一義としていた。これに沿って、1950年度税制改正で、株式譲渡益は総合課税化された。

その後、折からの朝鮮動乱勃発の特需で流れが変わり、「朝鮮特需対応のためにも企業の資本蓄積が急務だ」という機運が高まって、1953年度から株式譲渡益は原則非課税となり、それは1988年度まで36年間にもわたって続いた。これが戦後の証券会社の発展に大きく寄与したのは言うまでもない。

だが、これは「不公平税制の典型」との批判が強まったため、1989年度から課税化され、2002年度まで譲渡額に約1%の税率を課す源泉分離選択課税が主流となった。しかし、これについても「世界に例を見ない投資家優遇税制」との批判が強まり、2003年度から申告分離課税(税率20%)に一本化されたが、「投資家のショックを和らげる激変緩和措置」としての軽減税率(10%)が2013年度まで11年間も続いた。

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