中国人がハンカチを使わないこれだけの理由 必要ないを飛び越して、むしろ不潔?

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だが、中国ではハンカチを自分のために買うどころか、誰かにプレゼントすることもタブーとされている。

なぜなら、ハンカチは涙を拭くものであり、不吉だから。中国では、たとえば掛け時計など、中国語読みの音が悪い意味の音と重なると「縁起がよくないから」という理由で、贈り物にしてはいけないといわれている。最近ではそういう伝統的なタブーを気にしない人もいるが、ハンカチはそういう意味もあって、私は中国のデパートで売っているところはあまり見たことがないし、きれいなハンカチを持っている中国人女性に出会ったこともない。あるとすれば、日本に長年住んでいる中国人女性くらいだ。

しかし、中国でもずっと昔からそうだったのか、というと、そうではないらしい。今年4月、取材で上海に行ったとき、50代後半のアパレルメーカーの社長と食事をした。ちょうど男性はその1カ月前に父親を病気で亡くしており、お悔やみを述べると、彼はポケットからそっとハンカチを取り出して涙を拭いていた。

そこで私がハンカチのことを指摘すると、その男性は「私はアパレルの仕事をする前からずっと持っていますよ。エチケットですからね」といったのだ。

ハンカチを持たないのは、貧しかった時代の影響である

『なぜ中国人は財布を持たないのか』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

びっくりして、私がハンカチに関するエピソードの数々を話すと、男性はこう語り出した。

「私が小さい頃、中国ではビニール袋とか、そういう便利なものがなかったから、何でもハンカチや大きい布で包んで家に持って帰ったんです。市場で買ったリンゴとか、野菜も。それにね、父親の葬儀で私も初めて知ったのですが、中国の死装束の一式にはハンカチがつくんですよ。あの世に行くとき、持っていくんです。社会が混乱したり、貧しかった時代が長く、あまりにもモノがなく、殺伐としていたせいで、中国人の間にハンカチを持つ習慣がなくなっただけで、もともとは中国人も持っていたのだと思いますよ。おしゃれなものじゃないですけどね」

中国人がハンカチを持たないのは、貧しかった時代の影響で、もともとの文化的な理由でないとしたら、今後は変わっていく可能性もあるのかもしれない。

冒頭の社長は私にこういった。

「いまハンカチを使う場面といえば、エチケットやマナーに関連することばかりですよね。もしかしたら、中国人もハンカチを持つようになって初めて、本当の意味で先進国の仲間入りをするのかもしれませんね」

経済的に豊かになった中国人はキャッシュレスを好むようになり財布を持たなくなった。それは合理的だからだ。それでは、彼らは豊かになった結果、ハンカチを持つようにもなるだろうか。たかがハンカチだが、もし中国人に会うことがあったら、そんな視点で見つめてみたり、意見を聞いてみたりすると、より彼らへの理解が深まるかもしれないし、意外な発見があるかもしれない。

中島 恵 ジャーナリスト

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なかじま けい / Kei Nakajima

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経て、フリ―に。著書に『なぜ中国人は財布を持たないのか』『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(すべて日本経済新聞出版社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『「爆買い後」、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)などがある。

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