電通子会社があのウーバーに訴えられたワケ 世界に蔓延する「広告詐欺」を知っていますか
ウーバーが払った広告費は、フェッチを通じて、「アドネットワーク」と呼ばれる広告流通の中間業者と、「パブリッシャー」と呼ばれるメディアのウェブサイトに広告表示の対価として分配されている。メディアは掲載した広告がクリックされ、アプリがダウンロードされれば、報酬として広告収入を獲得できる仕組みだ。収入を得るには、アプリ直前のクリックが自社サイトで発生したものである必要がある。
この報酬体系の中で、一部のサイトが大量のクリックを機械的に発生させ、実際のダウンロード履歴と不正に結び付けたデータを作り、「うちのサイトのクリックがきっかけでダウンロードされた」と虚偽の報告をして報酬をだまし取った、というのがウーバーの主張。ウーバーは、フェッチがサイトなどの監視を怠って詐欺行為を看過し、広告収入の見返りにサイトなどからリベートを受け取ったことで、自社に過大な広告支出を強いたと指摘している。賠償額は訴状に明記されていないが、損害額は5000万ドル(約56億円)を下らないと求めている。
週刊東洋経済編集部は、18日発売の『週刊東洋経済』12月23日号で「ネット広告の闇」を特集。この一件をはじめ、近年急拡大したネット広告をめぐるさまざまな問題を追った。
フェッチは週刊東洋経済の取材に対し、ウーバーが広告業務に関わる取引先への支払いを滞納していると指摘。その上で、「ウーバーは支払いの義務を回避するために、業界全体の問題を利用している。フェッチはウーバーが新規ユーザーを獲得するのを助け、広告詐欺を減らせるよう助言もした」(マーケティング担当のキャサリン・カーター氏)と真っ向から反論している。また電通本体は「係争中のため、コメントは差し控える」(広報部)と答えている。
ビジネスにおける係争は、往々にして双方にある程度合理的な言い分がある。どちらが正しいかは、最終的には司法の判断を仰ぐしかない。だがこの訴訟は日本の広告産業に対し、ネット広告の費用対効果についての疑いを真っ向から突きつけたという点で大きな意味がある。欧米の企業主企業の中で噴出する、「ネット広告の価値は本当に巨額の広告費に見合うものなのか」という疑いを、端的に示しているのがこの訴訟なのだ。
ネットが広告市場の中心に
「広告費の半分が無駄金だったことは分かっている。問題は、それがどっちの半分だったのかわからないことだ」。これは19世紀に百貨店王と呼ばれた米国の実業家、ジョン・ワナメーカーの言葉だ。広告ビジネスの本質的な難しさを表した言葉として、長く語り継がれている。テレビや新聞が広告媒体の中心だった時代には、あるCMや広告を見た人のうち、どれだけの人が実際に商品やサービスの消費に至ったのかを、厳密に結びつけることは難しかった。
だからこそネット広告は、2000年代後半以降に急速に伸びた。ネット上のサービスやネット通販で販売される商品であれば、広告をクリックした人のうち実際に商品・サービスを消費した人がどの程度いるかというデータを、相当程度正しく把握できると期待されたからだ。
ネット広告は、世界最大の広告市場・米国ではすでにテレビを上回っている。また日本でも増加を続け、直近の2016年にはテレビの7割にまで迫っている。テレビを逆転するのは時間の問題と考える広告・メディア関係者は少なくない。
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