大前研一「日本の政治家は目線が低すぎる」 矮小化した議論ではこの国は変わらない

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現在の小選挙区制の選挙区当たりの平均有権者数は35万人で、これは市長選レベルに等しい。市長選レベルの小さな選挙区から出てくるから、目線が低くなって、地元への利益誘導が政治活動の中心になる。天下国家を論じたり、外交、防衛、経済といった日本の長期的な課題に向き合ったりする政治家が出てきづらいのだ。

議員になることが目的化して、「この国をこうしたい」という情熱とエネルギーを持った政治家が本当に少なくなった。小選挙区制の弊害についても国政レベルの議案にあげるべきときが来ている。

美しく衰退している日本という国は長期的な課題は山積みでも、実は緊急にやらなければならないことはほとんどない。ヨーロッパのように移民難民が大挙して押し寄せるわけでもなければ、中国やインドのような深刻な環境問題もない。待機児童対策が優先的な政策課題になるような国はほかにはないのだ。

優先順位が高い課題は抑止力を高めることと防災対策

私が思うに緊急課題は2つあって、1つは北朝鮮の核やミサイルをいかに防ぐか。抑止力をいかに高めるかである。もう1つは大地震など自然災害に対する備え。3・11クラスの大地震が大都市を襲った場合の防災対策はまだまだ不十分だ。国民の安全と安心を守るという観点からすれば、この2つの課題はきわめて優先順位が高い。

『大前研一 日本の論点 2018~19』(プレジデント社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

幸いなことにというべきか、この2つ以外に日本が緊急に壊れることはないから、政治が混沌としていても国家は機能する。極端なことを言えば、日本は完全自動運転ができる「レベル4」の自動運転車みたいなものだ。政治家というドライバーがいなくても自動運転で動く。

ただし、道路状況(時代状況)や天候などの走行環境(国際環境)によっては動けない。

国民の多くもそれが直感的にわかっているから、日本の長期的な国家ビジョンというものにあまりシンパシーを感じない。有権者がシンパシーを感じてくれないから、政治家もなかなか長期的な国家ビジョンに向き合おうとしない。

安倍一強の忖度政治でいや気がさしていた国民ではあるが、民進党の分裂と小池強権政治とを天秤にかけて今回は怒りを鞘に収めた。自動運転で動くなら課題も論点も必要ないかといえば、そうではない。日本はどんな状況下でも無人で自律的に走れる完全自動運転の「レベル5」ではない。

大前 研一 ビジネス・ブレークスルー大学学長

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おおまえ けんいち / Kenichi Omae

1943年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。以後も世界の大企業、国家レベルのアドバイザーとして活躍する傍ら、グローバルな視点と大胆な発想による活発な提言を続けている。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長およびビジネス・ブレークスルー大学大学院学長(2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラムとして開講)。2010年4月にはビジネス・ブレークスルー大学が開校、学長に就任。日本の将来を担う人材の育成に力を注いでいる。

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