大前研一「日本の政治家は目線が低すぎる」 矮小化した議論ではこの国は変わらない

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私は創憲論者で憲法はゼロベースで書き直すべきだ、という意見だ。この試案や憲法第8章(地方自治)の問題などをすでに20年以上にわたって提起してきている。

第9条のように矮小化した議論ではこの国は変わらない、と信じている。護憲論の人たちも9条以外のところをよく研究し、新たな国のビジョンを白い紙の上に書いてみるといい。

5年前に上梓した『日本の論点』のプロローグで、「安倍首相は改革者にはなれない」と私は記したが、その思いは今も変わらない。実際、5年に及ぶ安倍政治で日本がよくなったと思えることは皆無に等しいし、内閣改造で人心を一新しようが何も変わらないのは目に見えている。

一方、最大野党の民進党は蓮舫氏の辞任を受けて代表選が行われて、前原誠司氏が新代表に就いた。二重国籍問題を抱えた蓮舫氏を代表に担いだ時点で民進党は終わったと私は思っているし、優柔不断な前原新代表で民進党が生き返るとは思えない。政界を見渡しても、安倍一強を脅かす勢力は野党にも自民党にも見当たらず、混沌とした状況はしばらく続くことになりそうだ。

もちろん「自分ファースト」の緑色のレディでは日本は変わらない。キャスター出身の癖が抜けないのか目の前の原稿で劇場演出をするが、全部足してどういう国をつくりたいのかまったくビジョンが出てこない。プライドと権力指向だけはスカイツリーよりも高い、と言われた小池百合子「希望の党」代表の馬脚が2017年10月の衆議院選挙で露呈し、国民もそれを見抜いたのは800億円もかけた「僕難突破」選挙のせめてもの慰みだ。

日本のビジョンをつくり上げられる政治家がいない

自民党であれ、民進党であれ、「日本の国家運営の新しい理念はこういうものであるべきだ」ということをしっかり提案できるリーダーでなければ、新しい政治勢力をつくることはできないと私は思っている。

そういうことをやってくれそうな与野党の政治家の数人に声をかけて、この1年、「大前勉強会」というものをやってきた。月に1回、2時間、テーマを決めてみっちり講義や討議を行う。勉強は積み重ねだから、「1回でも欠席したら、次から来なくていい」というルールにした。

脱落者こそいなかったが、1年間の勉強会を通じて感じたのはとにかく勉強不足ということだ。それぞれに良い学校も出ているし、それなりの政治キャリアを積んでいる。1年間の勉強会で吸収したり蓄積したりしたものの中からもっと大きな国家ビジョンというものが出てきて当然なのだが、自分なりの日本のビジョンをつくり上げて、「先生、こういうことですよね」と言ってくる政治家は一人もいなかった。

「この国を変えるのは自分だ」という自負があるのなら私と意見を戦わせるのもありだと思うが、出てくる質問は細かいものばかり。「先生はそうおっしゃいますけど、私の選挙区に帰るとこんなことを言う人がいるんです」と自分の台所事情でしか語れない。自分の台所ぐらい自分で掃除してもらいたいものだ。

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