33歳、タイで転職繰り返す日本人女性の苦悩 コールセンターは安住の地ではなかった

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結婚に対する焦りも少なからず募っていた。地元の友達が結婚したというニュースも次々に入ってくる。

「ヤバいって思います。田舎ですからみんな20代後半までには結婚しますよね。周りで結婚していないのはあと数人しかいないんです。結婚願望はありますよ」

村上はバンコクで発行されている情報誌に「彼氏募集」の寄稿をしたことがきっかけで1年ほど日本人男性と交際を続け、同棲までしたが、だんだんと会話がかみ合わなくなり別れてしまった。

「だから結婚についてはもう流れに身を任せるしかないかな」

私が村上に取材したのは旅行代理店で働き始めてまだ1カ月足らずの頃だったが、アパートを1年契約で借りてしまったことから、少なくともあと1年はいる予定だという。

「今はまだ試用期間なんで1カ月に8日間の休みがあるんですけど、社員になったら6日間に減るんです。それで月給3万5000バーツ(約12万1800円)スタート。それだと正直どうなのかなと思いますね。あんなに嫌がっていたコールセンターの待遇と大して変わらないなあと」

バンコクでも悩み続け、漂流する「アラサー」と呼ばれる人たち。

浮き草のような軽さと、押し寄せる焦り

村上の場合、すべては地方コンプレックスから始まった。美大に落ち、やりたいことや夢も特になかった。都会生活へのあこがれから、福岡、地元、愛知、東京へと次々に居を移し、現在はバンコクでも職場を転々としている。地に足が付かず、浮き草のような軽さがある反面、33歳という年齢を考えると、このまま漂流生活を続けるわけにはいかないという焦りは募る。村上の胸の内には、じわじわと不安が押し寄せているようだった。

「今、33歳でここにいて、今後どうするんだろうって。結局20代の頃と何も変わっていないなあ。でも今さら地元に帰ってもね。まず車を買わないと生活できない。そうすると車のローンから始まって……。そんなの嫌ですよ! 来年の34歳の時点にこうご期待です。本当にどうなっているんでしょうかねえ」

村上の地元の1時間あたりの最低賃金は、コールセンターで働いていた時の時給約200バーツ(約696円)とほぼ同額。物価はタイのほうが安いから、それだけを考えても日本に戻る必要はもうないのかもしれない。

訪れるたびにビルやショッピングモールが次々と建設され、経済成長を続けるタイの首都バンコクと日本の地方都市。両者の経済格差が狭まりつつある現実が皮肉にも、村上をバンコクにとどまらせているようだった。

オペレーターたちの人生はとにかく変化が激しい。

取材をして数カ月が経過すると多くが転職している。バンコクでの取材を終えて、フィリピンに戻り、再びバンコクに行くと、取材相手がもうオペレーターでなくなっていることも多々あった。日本に帰国する人もいた。もっとも、日本でもオペレーターの離職率は9割という高さゆえ、それは自然な成り行きなのかもしれなかった。

旅行代理店での職を得て落ち着くのかと思いきや、村上はわずか1カ月ほどで退社していた。

「職場では挨拶もないし、退社時の『お疲れさま』もない。要するに会話がないんです。常にピリピリしていました。入社した時からここはヤバいなあと思っていました。だから嫌になっちゃったんです」

村上の人生も目まぐるしい。続いてラーメン屋のホール店員に雇われるも、給与の支払いをめぐりタイ人オーナーと険悪になって1カ月ほどで解雇。私はそのことをフェイスブックでのやり取りで知った。

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