楽天の「がん光免疫療法」は何がスゴイのか 三木谷氏が考える「医療イノベーション」

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山田:今回のプロジェクトが画期的なのは、新しい療法の開発に対して、きちんと出資をして実用化の道を開いたことだと思います。医療関係には、こうした新しい芽がたくさんあるにもかかわらず、既得権益者から「トンデモ技術」のように揶揄されて、実用化しないものが多かったように思います。しかし、1つ成功事例ができれば、横の似たようなものにも光が当たるように思います。おそらく、「うちにも支援してもらえませんか?」という要請が三木谷さんのところに集まるようになってるんじゃないのかなと思うんですけど。

三木谷:そうですね。当然、そういう流れになっていきます。楽天は、なんとなくインターネットショッピング企業というような位置づけになってますけども、僕はそうではないと思っています。イノベーティブなアイデアによって新しいかたちの財閥化に向けて進んでいるのが楽天です。医療もそうですが、教育についてもイノベーションをもたらしていきたい。そういう幅広い分野に取り組むような企業に、今、変わりつつあるということです。

ビジネス化が苦手だったこれまでの日本

山田:日本には小林先生みたいな方がほかにもいるでしょうね。

三木谷:います、います。僕は、日本の研究者の能力は本当にすばらしいと思います。でも、マーケティングとか、コマーシャライゼーションとか、本当にできていないんですよ。だって、もともと光ファイバーだって日本人が開発したわけですから。スマートフォンの原型だって日本が開発したわけであって、そこは誇るべきことだと思うんです。でも、それをビジネス化するという段になると、全然できなかったのがこれまでの日本。僕は、それを変えていきたい。

山田:マーケティングができないのは、なぜなのでしょう?

三木谷:アメリカのシステムは、ベンチャー優先なんです。小林先生のNCI(National Cancer Institute)や、NIH(National Institutes of Health)がその研究成果をライセンスする際には、ベンチャー企業を優先するんですよ。優先するのは、大企業ではない。なぜなら、ベンチャーのほうが商用化が早いからです。

日本は逆でしょ。つねに大企業を優先する。本当に発想自体が違うんですよね。なぜベンチャーを優先するかといえば、どうにか商売にしたいと考えているので必死にやるわけじゃないですか。その必死さを買うわけです。

これは医療関係だけではない。アメリカの場合は、同じ条件だったらベンチャーに発注する、というのが基本的な考え方なわけです。日本は、そういうことも含めて全部基本的に大企業優先主義じゃないですか。この違いは本当に大きいと思いますし、ここを変えられるかどうかが問われていると思いますね。

山田:国の方針として、大きい政府を目指すか、小さい政府を目指すか、も重要にもなりますね。米国は波がありますが、今は小さい政府に向かっている。日本はそこが不明確です。

三木谷:大きな流れで言うと、アメリカはトランプ大統領の下で、小さな政府に向かっていくわけです。それとの対比でいえば、日本は大きい政府に向かっているといえる。別に政府のやり方が悪いと批判するつもりはないんですけれども、やっぱりアントレプレナーシップを大事にする、という精神が重要だと思うんですね。

ですから楽天の役割は重要です。今回、この医療分野で楽天が成功すれば、いろいろなことが変わるかもしれません。がん治療が第1弾ですが、第2弾、第3弾というのも考えているんです。別に製薬会社になる気はありませんが、自分たちがイノベーションをもたらすことができる分野については、しっかりやっていくつもりです。

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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