「今治タオル」人気が直面する11年目の試練 今こそ独自性や付加価値を発信するチャンス

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佐藤氏がものづくりから関わったことは成功の大きな要因といえます。ブランディングは、宣伝やPR活動に注力するだけではうまくいきません。 製造から流通、PRまでを一貫して行うというものづくりに寄り添った今治のブランディングは功を奏し、1991年以降減り続けていた生産量は、2010年にプラスに転じました。

地域ブランドの知名度が上がると、「とりあえずマークをつけたい」という会社が往々にして現れます。品質が乱雑になるのを防ぐために、今治ではブランドマークとロゴを付与するための基準を設けました。

これによって一定の品質を保つことはできたものの、品質を確かめるうえでは綿密な実験を行う必要があるため、認定を受けるにあたっては費用が少なからず発生します。そこにコストをかけたくない会社や独自路線を歩む会社もあり、マークがついてなくても品質の高い製品を作っている工場は多々あります。

端から見ると、今治に工場をかまえているのにあのマークがついていないと「品質がよくないのでは」と思いがちですが、決してそんなことはありません。マークだけを拠り所に品質を判断するのは、技術力の高い工場から目を背けてしまうリスクも内包してしまいます。

発注増に耐えられる仕組み作り

急激に発注が増えたことで、納期に遅れるという問題も噴出しました。設備の強化や人員の配置などのインフラを整備しきれていなかったのです。タオルの生産は間に合ったとしても流通網の構築までは手がまわっておらず、「空港の今治タオル直営店に納めている在庫が切れた際に、どこの工場が補充するのか」などの統率も取り切れていませんでした。

現在はこういった障壁を乗り越え、「組合はまとまっている」と藤原さんは言います。ブランディング会議を定期的に開き、マニュアルの改定やイベントの企画などに勤しんでいるとのことです。今治タオル工業組合の資料によると、2016年の年間生産量は1万2036トンで、底を打った2009年の9381トンから比べると約28%増えています。

2010年以降は右肩上がりで生産量を増やしている今治タオルですが、ブランドが浸透したからと言って、永続的な安定が保証されているわけではありません。

「今治タオルのマークがあるから買おうと思われるようではいけません」

と藤原さんは語り、次のように続けます。「独自の技術や価値をもっと消費者の方たちに伝えていきたい。今治ブランドに頼らずとも売れるというのが、本来はあるべき姿なのです 」

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