福岡の「閑散だった動物園」が復活できた理由 「大牟田市動物園」が教えてくれる本当の幸せ

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園に入ってすぐの掲示板で、環境エンリッチメントとハズバンダリートレーニングについて簡単に説明。椎原園長は「これを理解して見ると、より楽しんでいただけますよ」という(筆者撮影)

椎原さんの強い願いから、園のコンセプトは「動物福祉を伝える動物園」に定めた。「飼育動物の幸せな暮らしについて、皆さんと一緒に考え、取り組んでいます」

動物福祉に関する取り組みは2つある。1つは、環境エンリッチメント。

動物園の動物は、野生に比べて居住スペースが狭く、餌や外敵の心配もないため刺激不足に陥り、繁殖行動ができなかったり、他の動物を攻撃したり、正常に発育しないなどの問題が起きやすい。

動物たちの健康が第一

そこで、動物が心身ともに健康に暮らせるように、環境を豊かにする(エンリッチ)工夫を凝らすのだ。例えば、アスレチック設備を作ったり、来園者と遊具を作って与えたり、エサを隠したり食べにくいところに置いたりすることで、動物たちが知恵を使い運動する機会を増やしている。

もう1つは、ハズバンダリートレーニングだ。動物に負担をかけずに健康管理を行うための方法で、日本の動物園のなかで園全体が組織的に取り組んでいるのは大牟田市動物園だけという。採血やワクチン投与、歯のケア、つめきりなど、動物の健康を保つために必要なケアは、無理にやろうとすると動物の心身に大きな負担がかかる。

このトレーニングでは、動物と飼育員が信頼関係を築きながら、少しずつ段階的に前進し、動物が自ら必要な動作をするようになる。例えば、体温計を入れるために自主的にお尻をさし出したり、採血のために寄って来て手足や尻尾を出したりするのだ。

「トレーニングといっても強制的なものではなく、動物をしっかり観察しながらスモールステップを踏み、動物がやってくれたらすぐに褒めることで、どんどん協力してくれるようになります。うまくいかないときや乗り気でないときは短時間で切り上げ、動物に不快感を与えないことも大切なポイントです」

ハズバンダリートレーニングの結果、ライオンは自ら人に近寄り、檻から尻尾を出して採血させてくれるようになった。これにより、病気の予防と早期発見が期待できる(写真:大牟田市動物園)

同園では、ライオン・トラ・ツキノワグマ・マンドリル・サバンナモンキーの無麻酔採血に、国内で初めて成功した。

現在、園では日替わりで、ライオン・キリン・ツキノワグマのトレーニングの様子を来園者に公開している。

「動物福祉を伝える園」として、園外への情報発信にも力を入れている。飼育員が1人ではなくグループで動物を担当するようにしたことで、知識や技術を継承できて、情報がうまく回るようになり発信力が高まった。来園者やネットから好意的な反響が多く、スタッフのモチベーションが上がり、動物たちにもいい影響を与えている。

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