駅弁「峠の釜めし」に紙の容器が登場したワケ ファンに衝撃「陶器が消える?」は誤解

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今、販売が続けられている駅弁の多くは、1000円もしくはそれ以上の値段のものが多い。「峠の釜めし」も1000円である。コンビニエンスストアやデパートなどで500〜700円程度の弁当が多数販売されていることと比べると、割高に思えるが、それでも駅弁販売店の客足が途絶えることはない。

現在も親しまれている代表的な駅弁は、各社とも質的な向上に努めた結果、「名物」として広く認められたもの。価格に応じた価値が感じられるという、納得感があるのだ。その要因は味であったり、駅弁から感じられる旅情であったりする。私が鉄道旅行に親しみ始めた昭和50年代には、中身もありきたりで、箸をつけてみたら"ハズレ"としか思えないような味の駅弁も確かに存在した。けれどもいまや、そのようなこともない。

ただし、駅での販売だけでは販路が極めて限られていたのも、今に至るまでの経緯を見れば確か。衛生基準を順守した製造工場を作ると、設備投資が回収できないという事態になりかねなかった。もちろん投資額が同じなら、弁当を少しでも多く作って販売するほうが、コストが下がり、会社としての利益も大きくなる。1個でも1000個でも、一般に販売する以上、食中毒を起こさないための対策は怠るわけにはいかない。

駅以外が生命線となった駅弁業者

現在、現地の駅でしか購入できないという駅弁は、ごく限られた存在だ。反対に、デパートなどで行われる「駅弁祭り」や、それこそ各地の駅弁を1カ所に集めた東京駅・駅弁屋「祭」などでの委託販売が盛んに行われている。

さらに地元では、運動会などのイベントや地元企業への配達、観光団体向けの貸切バスへの積み込み、ドライブインや高速道路のサービスエリアでの販売など、駅に限らない販路拡大に力が入れられており、これらが会社の生命線となっているケースも目立つ。

荻野屋も、横川駅近くで大規模なドライブインを経営している。そこでは駅弁の販売だけではなく、土産ものの販売やレストランの営業なども、併せて行われている。かつての駅弁調製業者は、規模の大小はあるものの、駅で弁当を販売するだけの企業ではなく、おしなべて地域を代表するような総合供食企業へと発展しているのだ。

しかしながら、やはり駅弁は列車の中で食べると、より美味しく感じる。チャンスがあれば、今後も積極的に駅弁を購入し、親しんでいきたい。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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