ごまかし「副業解禁」に潜む巨大リスクの実態 真正面から法改正すべき根本理由

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また、厚労省は、労働者自身による就業時間や健康の管理を求めていますが、副業によって長時間労働となった場合の健康被害リスクは、本人が受け入れなければならない重要な問題です。また、仮に副業管理も含めて企業に安全配慮義務違反があったとなれば、企業は損害賠償責任を負う可能性もありますが、一方で副業先(あるいは自営・業務委託)での業務時間管理は、企業外で行われている活動であり、限界があります。

その中で、労働者が自らの健康リスクについて自己責任を負え、であったり、管理が不可能な事柄に対して安全配慮義務違反であると企業の損害賠償責任を認めればよい、などとリスクについて丸投げする政府の姿勢が正しいこととは思えません。最後に述べるように、正面から法改正を行う必要があることと向き合うべきです。

さらに、労災補償の問題があります。厚労省の検討会でも、「労災保険制度は労働基準法における個別の事業主の災害補償責任を担保するものであるため、その給付額については、災害が発生した就業先の賃金分のみに基づき算定している」とされています。

つまり、本業が終わり、副業先に行く途中での通勤災害や、副業先で業務中の労働災害については、副業先の賃金水準を基準として労災補償がなされます。通常は、副業先のほうがはるかに賃金水準が低いでしょうから、労災補償額も低いことになります。しかし、このことを理解して副業を行っている人はどれほどいるでしょうか。

副業を認めざるをえない企業側の複合的な事情

そもそも、なぜ今、副業問題が脚光を浴びているのか。その根本原因を考えると、副業を認めざるをえない企業側の複合的な事情もあります。日本の労働法では賃下げ規制が非常に厳しいので、賃金を上げることも難しく(法的拘束力が及ばないボーナスは除く)、正社員の給与水準は改善していません。

そして、同一労働同一賃金という政策により、非正規の処遇は多少改善しているのですが、一方で企業のサイフは1つであるため、その分、正社員については伸び悩んでいます。

さらに、昨今の働き方改革の象徴である労働時間削減により、残業代もカットされる事例は多く見られます。これらの複合的要因により、正社員の手取り給与が減っているのです。そうすると、1つの会社で生計維持十分な給与を得られないケースが多いことが、副業をむしろ「解禁せざるをえない」原因となっているでしょう。

人生100年時代、パラレルキャリアとして副業を労働政策として推し進めること自体は歓迎です。筆者としても、「副業=悪」と述べるつもりはいっさいありません。むしろ、終身雇用の事実上の崩壊により、1つの会社にとどまることは「会社が傾いたときには何もできない人」になってしまうリスクを抱えることになりました。

社内スキルしか身に付かないままでいるよりは、他社での就労も経験することにより多様なキャリアを築くことで、個人のスキルアップを図ることは重要です。副業のポイントは、スキル・キャリアアップと関連した働き先を選ぶことでしょう。

しかし、本格的に推し進めるのであれば、モデル就業規則の改定でお茶を濁し、副業の法的位置づけがあいまいなままでは問題の火種になります。正面から労基法の労働時間通算制度、労災保険給付のあり方、そして税制のあり方を議論したうえで、正面から堂々と「副業解禁」を進めるべきだと筆者は考えます。

倉重 公太朗 倉重・近衛・森田法律事務所 代表弁護士

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くらしげ こうたろう / Kotaro Kurashige

慶應義塾大学経済学部卒。第一東京弁護士会労働法制委員会 外国法部会副部会長。日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員。日本CSR普及協会雇用労働専門委員。労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、社会保険労務士向けセミナーを多数開催。著作は20冊を超えるが、代表作は『企業労働法実務入門』(日本リーダーズ協会 編集代表)、『なぜ景気が回復しても給料は上がらないのか(労働調査会 著者代表)。

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