ナイキの有名コピー「JUST DO IT.」の真実 元ナイキジャパン社長が語る創業者の信念
じつは、フィルから私に与えられたミッションが2つありました。1つは「Niki-ize yourself(お前自身がナイキになれ)」。もう1つは、「ナイキジャパンをナイキ化すること」。つまり、ナイキジャパンの組織カルチャーを変えろというわけです。
マイケル・ジョーダンが社長就任会見に
――秋元さんが社長に就任されたとき、マイケル・ジョーダンが衛星中継で登場したと聞いていますが?
そうなんです。当時の日本では、社長就任会見というと、帝国ホテルやニューオータニで格式高くやるというのが普通でした。しかしフィルが「ナイキっぽくやろう。マイケル・ジョーダンを呼ぼう」と言ったんです。
それを聞いて、「おいおい、無理だろう」と思いました。当時、マイケル・ジョーダンはNBAの現役を引退して野球にチャレンジ中で、シカゴではレストランのオーナーもやっていました。多くの人々がそのマイケルから直接話を聞いてみたい。だから衛星中継で登場してもらおうという案でした。電通に問い合わせたら2億、3億円はかかるだろうと。これは手持ち予算とは1ケタ違う話です。
それで早速、ナイキ本社での研修で親しくなったナイキ香港の広報担当に「無理な話だよな」と相談したんです。そしたら彼は「そうじゃないだろ、秋元。無理なことをやる、常識を破る(ブレーキングルール)ことがナイキ風なんだ」と言ったのです。
結局、マイケル・ジョーダン出演の衛星中継記者会見が、なんとか実現しました。ナイキ香港の彼が、MTVにこの会見のグローバルな放映権を売却するという絶妙な知恵を出してくれたからです。会場となったのは、まだ完成して間もない東京ドームのプリズムホール。ジョーダンを映すために、いちばん大きなブラウン管モニターを何十台も並べて、大画面を特設しました。そこにジョーダン目当ての250人近い記者が集まるという異例の記者会見でした。
前任のナイキジャパン社長内田さんと私、そしてフィルのスピーチが終わって、いよいよマイケル・ジョーダンの登場となりました。ところが、シカゴの彼のレストランの椅子しか大画面には映っていない。本人が現れない。だんだんと私たちも焦って、会場もざわめいてくる。予定から5分ほど遅れたところで、やっと彼が現れました。そして彼はこう言った。
「みんな、俺が出てこなくて緊張しただろ。これはわざとやったんだ。俺が試合に出る5分前は、いつもそれくらいの緊張感で過ごしているんだ。最初の一歩を踏み出すまではすごく嫌なんだ。でも、それがオレたちの仕事なんだ。わかってくれたかい」
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