財政悪化が進んでも警鐘の鳴らない国、日本 衆院選で明らかにポピュリズムに陥った

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これは格付けが、デフォルト確率を見るものだからだろう。日本政府は借金のほとんどを国内で賄っている。2016年12月末時点で1075兆円発行されている日本国債のうち海外投資家の保有比率は10.5%にすぎない。家計や企業といった民間部門に余剰資金があるので、いざとなれば消費税率でいえば30%といった大幅な増税をすれば赤字をなくせるし、もっと大幅な増税をすれば借金は減らしていくことができる。あるいは高インフレを起こせば政府債務は実質的に大幅に減るはずだ。格付け会社からすると形式的には債務不履行の確率は低いと考えられる。

つまり、財政再建に取り組まなければ、日本の家計は将来に大きな負担を覚悟しなければならなくなるが、要するに「日本経済がどんどん衰退して日本人が苦しむだけ」ということだ。BNPパリバ証券の中空麻奈投資調査本部長は「財政が悪化する方向のイベントがあっても見通しをネガティブに変えることすらせず、警告を発しないのは無責任。日本でのビジネスを失いたくないという配慮もあるのではないか」と格付け会社を批判している。

後代へのつけ回しは増大するばかり

また、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のスプレッドが警鐘を鳴らしてくれると見ているような記事も時折あるが、実際は、日本国債においてはこれは参考指標とならない。CDSは保証料を支払って、元本を保証してもらう取引で、スプレッドは保証料率になる。社債などではヘッジに活発に使われている。

しかし、日本国債ではヘッジに使われていない。日本国債はすべて円建てで発行されている。日本国債がデフォルトするときは円の信用も破綻しているので、100億円分の国債と引き替えに100億円をもらっても仕方がない。したがって、日本国債のCDSはドルで取引されているが、日本政府はほとんどドル建ての債務を持っていないので、銀行などの機関投資家は為替リスクを取ってまでドルをもらう取引を行っていない。そこがかつて話題になったギリシャ国債などとの違いだ。

日本国債のCDSはヘッジ目的ではなく外国人投資家の一部が、日本国債を材料にして賭けを行なっているにすぎないので、市場への影響力はほとんどない。

以上のようにまったく警鐘の鳴らない中で、「後代へのつけ回しの拡大」に対する危機感すら失われているのが日本の現状だ。しかし、リスクが顕在化する局面はどこかで現れる。近い将来でも、米国の経済状態が非常によくなるようなことがあって、長期金利が上昇すれば、これに日本の金利も引きずられて上昇することがありうる。そうすると、日銀がこれを抑え込むことは難しくなり、政府の利払い負担が拡大していく。「フリーランチはない」とか「借りたカネは返す」といった常識は日本から失われてしまったのだろうか。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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