工場一筋トヨタ副社長が語る車づくりの真髄 54年現場で働く匠の思いは東大生に届いたか

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副社長になった今でも現場主義で、部下の教育にも熱心だ。「鍛造は汚れるので、今でも工場に風呂がある。みんなと裸の付き合いしている。とにかく仲間と触れ合っている」と楽しそうだ。

副社長室ではなく、工場勤務を貫く

「本当は本館ビルの15階が副社長の部屋だが、今は鍛造の一角で現場が見える場所にいる。そこにいないと自分の勘が鈍る。豊田社長にはわがままを言って許してもらっている。ロッカーも食事もみんなと一緒だ。私はこういう立場だが、現場は気を遣わないよ。私が『おはよう』と言っても『おっす』と言われる。私がいきなりこうなったわけではないからね。みんな昔から知っている間柄だから。だが、それが心地いい」と話すと、会場からは大きな笑い声が起きた。

講演後、女子学生からは「製造現場からなぜ初めて副社長になれたのか」との質問が飛びだした。「うちの会社は社長もそうだが、現場の人を暖かく見ている。以前から現場の人がリーダーになってもいいじゃないかと言われていた。そこで私がたまたま。ただここまでになったのは自分でもびっくりしている。生産現場の部下が俺たちも頑張ったらそうなれると目標にしてくれたらいい。私の後輩も今は専務になった。そういう道が開けたのはよかった」と目を細めた。 

講演会前には工場で使われる設備について、学生達がトヨタの社員に質問をしていた(記者撮影)

東大の構内には、匠の技で作られたゴリラや少量生産で手作りの車などが展示され、東大生も興味深く見ていた。

自動車業界は今、100年に一度の変革期を迎えている。部品点数の少ないEV(電気自動車)化が進むと、誰でも簡単に製造できることから、車のコモディティ化(汎用品化)を招くといわれる。

だが、河合副社長は「日本が国際競争に勝ち残って行くには今後も付加価値の高いモノづくりに取り組むことが不可欠だ。それには人間の知恵や工夫が必要だ」と強調した。モノづくりの大切さを説いた河合副社長の熱い思いは、これから社会人になって日本を支える東大生に届いたか。

冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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