次期FRB議長、ウォーシュ氏だと市場不安定化 タカ派とも言い切れない「微妙な発言」を読む

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(4) データ・ディペンデントからトレンド・ディペンデントへ

FRBのデータ・ディペンデントという姿勢は、経済指標にはノイズがつきものであることによって、金融政策を不安定・不規則なものにしているという。景気のファインチューニングに耽(ふけ)るのをやめ、中期的なトレンドの変化に対応すべきだとの主張である。

(5) 経済モデルや金融政策ルールへの懐疑(2と関連)

ウォーシュ氏は、(同氏が「アウトプット・ギャップ・モデル」と呼ぶ)経済モデルに信頼を置いていない。モデルには欠陥が多く、モデルを使うことで不確実性があいまいなものになり、政策のバイアスが覆い隠されてしまうという。

(6) FRBの野放図な権限拡大の見直し

ウォーシュ氏は、量的緩和や金融規制の権限拡大などを通じてFRBが政府の「何でも屋」になっていると主張している。中央銀行の権限等について明確な線引きをし直すことを求めている。

「長期停滞論」には与しないと表明

こうしたウォーシュ氏のFRB改革案は、どのような金融政策運営を示唆するのだろう。(1)のインフレ目標の見直しは、低いインフレ率でも物価安定という目標を達成しやすくなるため、「タカ派」の政策運営につながる。(6)FRBの権限縮小も、「バランスシートの縮小を急げ」と読み換えれば、「タカ派」的である。一方、(2)賃金上昇への寛容さや、(4)のトレンドの変化に合わせたゆっくりとした政策変更という点では、「ハト派」的な政策運営が示唆される。

FRB改革案とは別のイシューに関するウォーシュ氏の主張についても、そこから金融政策の方向性を読み解くのは難しい。

ウォーシュ氏は「実質均衡金利が低下してしまっている」という長期停滞論には与(くみ)しない。その点では、政策金利を低く抑える必要はないことになり、利上げのスピードをゆっくりしたものにする必要性は薄れる。一方、ウォーシュ氏は、トランプ政権の減税や規制緩和によって高成長が達成できると考えている。この「高成長」とは、潜在成長率の上昇を意味している。サプライサイドが強化される分、インフレへの警戒感は後退することになるので、FRBは利上げを急ぐ必要がなくなる。

このように、ウォーシュ氏の主張は、市場参加者の多くが指摘するほどタカ派一辺倒というわけではない。むしろ同氏の主張からは金融政策に対する整合的な首尾一貫した含意が読み取りにくいのである。ブラックボックスとは言わないまでも、ウォーシュ氏の金融政策には不透明感が強い。現在の金融政策スタンスをどう考えるか、同氏がそれを明確にするまでは、同氏の議長指名は金融政策に関する不確実性を高めるのではないかと懸念される。

小野 亮 みずほリサーチ&テクノロジーズ プリンシパル

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おの まこと / Makoto Ono

1990年東京大学工学部卒、富士総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社。1998年10月から2003年2月までニューヨーク事務所駐在。帰国後、経済調査部。2008年4月から市場調査部で米国経済・金融政策を担当後、欧米経済・金融総括。2021年4月より調査部プリンシパル。FRB(米国連邦準備制度理事会)ウォッチャーとして知られる。

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