鉄道メーカー世界2位と3位が統合する事情 IoTや新技術の波に日本勢は対応できるのか

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大手以外のメーカーにとってAGTの広がりは千載一遇のチャンスだ。三菱重工業は線路上を走る鉄道営業車両は製造していないが、AGTでは強い存在感を誇る。米国、シンガポール、香港などの空港交通車両や日本の「ゆりかもめ」「日暮里・舎人ライナー」などが代表例だ。シーメンスはAGTを手掛けているが、アルストムは手掛けていない。したがって、シーメンスとアルストムが統合しても市場における三菱重工業のポジションは揺るがない。同社は今回の統合について、「現時点では直接的な影響はないと考える」とコメントした。

三菱重工業が世界で展開する新交通システム(写真:三菱重工業)

同社交通機器事業部の安川雅夫事業部長は「AGTは10両以上の長編成化や時速120km程度までの高速化が可能」としている。つまり、これまで輸送量が鉄道よりもやや劣るエリアで強みを発揮してきたAGTが、鉄道の領域にも進出できることを意味する。建設コストも鉄道より安く、同社は「AGTが将来、鉄道に取って代わることを期待する」(同)。

IoTが鉄道業界に変革を促す

近年メディアをにぎわすIoT(モノのインターネット)は、鉄道業界にも着実に浸透しつつある。運行データを分析することで部品の劣化時期を予測し、部品交換の最適化につなげる、また、混雑時の人の流れを分析し、運行ダイヤの最適化や駅の混雑緩和につなげるといったものだ。シーメンスは自社開発のIoTプラットフォーム「シナリティクス」をスペイン国鉄の高速鉄道に導入し、日本がお家芸としてきた「定時運行」の比率を飛躍的に高めた実績がある。

シーメンスとアルストムは統合の理由の1つに「デジタル化」を挙げた。IoTの技術を持たないアルストムが危機感からシーメンスとの統合に走ったと考えてもおかしくない。だとすれば、日立が自社のIoTプラットフォーム「ルマーダ」を武器に鉄道で攻勢をかけることも十分考えられる。

シーメンスとアルストムが統合すれば、日本の鉄道車両業界も「無風」ということはありえない。2012年には、大手の一角を占めていた東急車輛製造が業績悪化からJR東日本に鉄道車両事業の経営権を譲渡した。AGTやIoTのような新たな流れも加速しつつある。当面は様子見だとしても、世界の流れを読み間違えると、再編の波はいずれ日本にも押し寄せるだろう。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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