鉄道メーカー世界2位と3位が統合する事情 IoTや新技術の波に日本勢は対応できるのか

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国内では日立、川重に、日本車輌製造、近畿車輛、総合車両製作所を加えた5社が大手とされる。これら以外にも鉄道事業の規模が小さいメーカーが数社ある。国内にこれだけのメーカーがひしめいているといかにも多いように見える。しかし、日本車輌はJR東海(東海旅客鉄道)の子会社、総合車両はJR東日本(東日本旅客鉄道)の子会社、近畿車輛は近畿日本鉄道とJR 西日本(西日本旅客鉄道)が大株主であるなど、各社が主要顧客のJRと結び付き、うまくすみ分けができている。当面の大型再編はなさそうだ。

英国で走る日立製の高速鉄道車両(記者撮影)

日立はM&A(企業の合併・買収)も活用して2020年代前半までに鉄道事業の売上高を1兆円に引き上げるという目標を持つが、「目標を変えるつもりはない」とする。他社も同様で、ある鉄道メーカーの幹部は「今回の統合は役員の間で話題になるだろうが、役員会の議題になることはないだろう」と話す。

とはいえ、新生シーメンス・アルストムが統合によるシナジー効果で車両製造コストを下げれば、日本勢は劣勢に立たされる。シーメンスはドイツの「ICE」、アルストムはフランスの「TGV」という高速鉄道の車両をそれぞれの国で製造している。今後、ICEとTGVを統合し共通の車両を開発する可能性について、ラファルジュCEOは「顧客の意向次第」と回答し、含みを持たせた。高速鉄道もコスト競争の時代に突入しようとしている。

世界仕様の新幹線車両が登場

日本勢は別の角度からコスト削減のアプローチを始めている。日本車輌を傘下に抱えるJR東海は新型新幹線車両「N700S」を開発中だ。現在主力のN700Aタイプは16両編成で車両ごとに異なる床下機器が搭載されており、12両編成のような異なる編成長の場合は車両を改造する必要があった。たとえば16両編成の「700系」をベースに開発した台湾高速鉄路の車両「700T」は12両編成で、それに伴う改造が必要だった。

日本車輌を傘下に抱えるJR東海が開発中の新型車両「N700S」(撮影:尾形文繁)

N700Sは床下機器の小型・軽量化により、車両のバリエーションを大幅に削減。最短ではわずか4両編成で走れるようになり、12両といった編成にも柔軟な対応が可能になる。また、改造が不要になることで車両の製造コストも下げられる。JR東海はN700Sの今後の海外展開について「できるだけ多くのところに展開していきたい」(同社)と意欲を見せる。

高速鉄道よりも成長性の高い都市鉄道では、伝統的な鉄道システムとは違う流れが生まれている。代表例が、軌道上をゴムタイヤで走る新交通システム(AGT)である。ゴムタイヤで走るAGTは鉄輪で走る鉄道よりも急カーブや急傾斜の設計が可能で、路線計画の自由度が鉄道よりも高い上、建設コストの低廉化が可能だ。タイヤやブレーキの交換などメンテナンスでも、自動車用途のものを活用するなどで鉄道並みに抑えることができる。

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