自動車業界の新たなリスク 北米市場を揺さぶるリース販売の爆弾

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大型車の価格下落がセダンにも飛び火?

リース事業の傷口がさらに広がるかは中古車相場次第で、誰にもわからない。ただ、カギを握る条件はある。一つは原油相場。目先、上放れてはいるが、慢性的な高値圏が続けば、ガソリンをがぶ飲みする中古大型車の価格には下押し要因になり、引当金の積み増しを迫られるメーカーも出てこよう。もう一つはインセンティブ(販売奨励金)の動向。中古車価格が下がったクルマはたいてい新車としても人気が落ちている。そこでメーカーは値札を維持したまま、奨励金をつけて販売台数をさばこうとする。それでもダメなら、もっとつける。新車の実勢価格はどんどん下がる。中古車価格は新車より安い必要があるため、中古車価格もさらに下がる。負のサイクルだ。

高級セダンの中古車価格動向からも目が離せないと指摘するのは、JPモルガンの中西孝樹アナリストだ。「トヨタのカムリ、日産のインフィニティ、ホンダのアコードなどの中古車価格は、今のところあまり下がっていない。ただ、こうしたセダンの中古車を買うのは誰か。サブプライム層だ。住宅市況がもう一段悪化するような局面があれば、クリティカルな影響が出てくる」。

クライスラーは自動車リース事業の中止を表明し、今後はローンやインセンティブに力を入れていくと明らかにした。GMACやフォードもリース事業を縮小する傾向にある。「企業にとってリースビジネスは、中古価格が安定しているのが大前提。米国経済の変化がその根本を揺るがしている」(中西氏)。が、リース縮小は両刃の剣だ。残価リスクは消えるが、リース販売の減少分だけ売り上げにシワ寄せが来るのは免れない。リース事業の縮小がさらなる減産につながるおそれもある。

日系メーカーは今のところリース事業縮小を表明していない。リースビジネスを襲った突然の異変は、北米シェアのさらなる地殻変動を起こす可能性もはらんでいる。

高橋 由里 東洋経済 記者

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たかはし ゆり / Yuri Takahashi

早稲田大学政治経済学部卒業後、東洋経済新報社に入社。自動車、航空、医薬品業界などを担当しながら、主に『週刊東洋経済』編集部でさまざまなテーマの特集を作ってきた。2014年~2016年まで『週刊東洋経済』編集長。現在は出版局で書籍の編集を行っている。

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