「トランプ大統領豹変」に2大政党が大慌て これぞトランプ流取引術なのか

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このように、こう着した党派対立の枠組みを飛び越えられるのは、トランプ大統領ならではの特色である。かつては民主党支持者だったこともあるトランプ大統領は、所属政党である共和党への忠誠心が極めて低い。選挙戦当時を振り返っても、それほど富裕層減税に乗り気ではなかった点など、民主党に歩み寄れる余地はあった。

トランプ大統領のディール術が、こう着する米国政治へのカンフル剤になっているのは間違いない。これまで内紛などで成果を示せなかった議会共和党も、トランプ大統領が民主党に歩み寄るのを見れば、改めて結束を強める必要性を認識しているはずだ。一方の民主党にも、議会の少数党でありながら、政策の方向性に影響を与えられる可能性が生まれてきた。

そもそも、党派対立が行きすぎ、超党派での柔軟な意思決定ができないのは、ここ数年の米国政治の弱点だった。財政協議のように、いずれは妥協しなければならないにもかかわらず、支持者に納得感を与えるために期限ギリギリまで交渉を続けるのも、党派対立の激化から来る悪弊だったと言わざるをえない。

オバマケアの改廃に突き進む不思議

とはいえ、トランプ流のディール術は諸刃の剣である。いずれの政党からも、愛想を尽かされてしまうリスクは否定できない。民主党に歩み寄りすぎれば、共和党の議員はトランプ大統領への忠誠心を失いかねない。他方の民主党にしても、冒頭にあげたペロシ院内総務の集会に明らかなように、支持者のトランプ不信は根強く、歩み寄るにも限度がある。来年の中間選挙を考えても、結局は対立しなければならない政党であり、トランプ大統領とすれば、民主党だけに頼った政権運営はありえない。

トランプ大統領には、それぞれの政党をうまく刺激しつつ、成果を手に入れるデリケートな議会対策が必要とされるわけだが、そこまでの戦略があるかどうかは不透明だ。象徴的なのが、これも突如として再燃したオバマケアの改廃問題である。

米国では、オバマケアの改廃法案が、改めて議会で取り上げられようとしている。7月には議会での可決に失敗していたが、最後のチャンスとばかりに共和党内で支持が高まっている。トランプ政権も、国連総会でニューヨークに滞在していたマイク・ペンス副大統領を、わざわざ議会対策のために首都ワシントンに日帰りさせるなど、議会対策に本腰を入れてきた。

いうまでもなく、オバマケアの改廃には、民主党が強く反対している。強引に推し進めようとすれば、DACA問題などでの協調路線に悪影響が出るのは間違いない。目先の成果を貪欲に取りに行く以外に、どのような戦略がトランプ政権にあるのか、読み解くのは難しい。

突如として浮上したトランプ流のディール術で、米国の政治がダイナミックに動き出すのか。それとも、一層の混乱が待ち受けているのか。米国の政治は、面白い局面に差し掛かっている。

安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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