新法施行に悩む東京地検・高検トップの素顔 司法取引・共謀罪の運用に妙薬はなし

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東京高検のトップである検事長に就任したのは稲田伸夫氏(61)。仙台高検の検事長から横滑りした格好だ。稲田氏は東京地検の検事時代にゼネコン汚職事件を3年半に渡って手がけたことがある人物だ。

印象に残る事件は普通の殺人事件だったという。具体的にどんな事件だったかは言明を避けたが、「普通で単純な事件だが、なぜそうなったのかが印象に残っている」のだそうだ。

ゼネコン汚職の公判を3年半担当した東京地検時代も印象が強いという。仙台高検時代の印象を聞かれると「仙台は全国的に見て放火事件が多く、家族のもめ事を動機とした根の深い放火が多かった」と述べた。

供述を得にくくなっている

司法取引をどう活用していくか。これについて稲田検事長は「司法取引はオールマイティではない。司法取引の必要がある事件なのかどうか、検察の知力を出し合ってよくよく考えていかないといけない」と述べる。

稲田検事長は1956年8月、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、1981年に東京地検検事。福岡地検を経て1983年に法務省刑事局入局。1985年水戸地検に転出、1986年に東京地検に戻るも1988年に再び法務省刑事局に。1992年松山地検、1994年東京地検を経て、1997年に3度目の法務省刑事局勤務に。内閣法制局参事官、法務省刑事局公安課長、同総務課長、大臣官房人事課長を経て2008年1月、山形地検検事正。その9カ月後に法務省大臣官房長。同刑事局長、法務事務次官を経て2016年仙台高検検事長。時間があるときは歴史書を読み、ジムに通う(撮影:尾形文繁)

というのも、そもそも「監視カメラやドライブレコーダー、スマートフォンの発達・普及で客観的証拠が従来よりも残りやすくなっている一方、供述が得にくくなっている」からだ。機器の発達・普及で証拠固めは容易になった一方、供述を得て事件の全容を解明することが難しくなっていると指摘する。

「仙台高検では、被疑者が黙秘をするケースが増え、参考人の協力を得られないケースが結構見られた。そうしたケースは東京では仙台よりもさらに多い。言うは易く、行うは難しだが、捜査に協力してもらえるようにいかに説得をしていくか、検察の捜査の意義をどうやって被疑者や参考人に理解してもらうかが課題だ」(稲田検事長)

共謀罪については、「どうやれば、ちゃんとやっていますと言えるのかが難しい。検察としてどう振る舞うかを反芻・勉強していく。できることはそういうことくらいしかない」(稲田検事長)。

東京地検と東京高検の2人の新トップは司法取引を効果的に運用し、共謀罪を適正に適用していくことができるだろうか。

山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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