新聞記者→作家になった男が味わったどん底

封印作品の謎に挑みフリーから再び正社員に

「ハフポスト日本版」にある安藤さんのページ

そして現在。安藤さんが同編集部に所属して4年が過ぎた。職場ではニュースエディターとして取材活動に明け暮れ、充実感を得ながら仕事している。収入も安定し、住まいは都内賃貸に移った。現在の生活を踏まえ、フリーランスだった日々をこう振り返る。

「フリーランスの時代はつらかったです。自己管理ができなくて昼夜逆転することもよくありましたし、何より不安が大きかったです。原稿を書いているときに『このまま本を売り続けて本当に生きていけるんだろうか』と発作的に強く思ったり。知らない土地に取材に行ったときに、急に『自分は何をやっているんだろう』と考えたり。

終日カフェで原稿を書いていたある日、『領収書をください』がこの日の唯一の会話だった自分に気づいて愕然としたこともあります。とにかく寂しくて不安で、つねに何かのベールに覆われているみたいな感覚に覆われていた気がします」

会社に属してからの生活は孤独感も不安感もない。しかし、かすかな物足りなさも感じているという。

「書きたいことが書けないというところはどうしてもあります。フリーのときのようにほかの人がやっていないことを形にしている、自力で生きているという感覚は薄くなりましたね」

この気持ちは、最近になって社内に導入された自由時間という制度が埋め合わせてくれるかもしれない。一定時間内なら自分の好きなように取材できる取り組みで、社外に出掛けることも認められる。社員でいながらにして、封印作品の取材をすることも可能だ。

まだ総論が書けていない

「前々から封印作品に関する取材はやろうと思っていてできていませんでした。フリーランスのときのような切迫した欲求が芽生えず、つい後ろ倒ししていましたが、つい先日から自由時間を使って取材を再開しました。9月には記事が『ハフポスト日本版』に掲載されると思います」

フリーランス生活の晩年、封印作品の調査は安藤さんにとってつらいものになっていた。封印パターンが見えてくるようになり、新規の作品を調べていても過去の取材に似た結果が透けるようになった。文章の構成も自己模倣のようになり、新しい発見ができなくなっていたという。その鬱屈としたつらさは、時間や環境が大幅に解消してくれた。

「自分のなかでは、封印作品シリーズはまだ不完全燃焼の部分があるんですよ。単体のルポはいくつか書いてきましたが、封印作品とは何なのかという総論が書けていないんです。いつか封印作品を通して、日本におけるタブーとは何なのか、逆説的に日本の社会や精神の構造はどうなっているのか、といったことをつまびらかにしたいと思ってます」

それを「ハフポスト日本版」の安藤健二として世に出すのか、ノンフィクション作家の安藤健二として発表するのかはまだわからない。ただ、再びフリーランスに戻るとしたら、「予算管理や諸々のマネジメントをやってくれる人が必要ですね」という。安藤さんは「ちょうどいま婚活中だ」と笑った。

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