『あの花』ヒットの緻密な仕掛けとは? アニプレックス・斎藤俊輔プロデューサーが語る制作秘話(下)

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――そうすると宣伝の手法も変わってくるのではないかと思うのですが。

斎藤俊輔(さいとう・しゅんすけ) 1983年生まれ。2007年にアニプレックス入社。販売推進部で活躍後、製作部に移動。2010年に『黒執事Ⅱ』でプロデューサーとしてデビュー。その後も数多くのアニメ作品をプロデュースしている。プロデューサーとして参加した主な作品として『放浪息子』『WORKING'!! ワーキング!!』『妖狐×僕SS いぬ×ぼくシークレットサービス』『DOG DAYS´』『絶園のテンペスト~THE CIVILIZATION BLASTER~』『マギ』『銀の匙 Silver Spoon』などがある。

やはり単館であれば宣伝もコアにダイレクトにということになりますしかし、公開規模が広がっていくと、劇場に対する営業活動も必要になりますし、いわゆる配給宣伝といった部分も大きな課題として出てきます。

配給のアニプレックスとしても、少しずつ経験を積み重ねてきましたこれまで「劇場版 空の境界」のテアトル新宿単館公開での成功をあしがかりに、『魔法少女リリカルなのはThe MOVIE』シリーズでは1stで19館スタート、2ndでは50館スタート。そして、『魔法少女まどかマギカ』。公開規模を単館から50館程度まで広げロングランさせていく事で様々な事を学んできました。

アニプレックスの主軸のビジネスはパッケージビジネスなので、DVDを買ってもらうための宣伝でしたら経験が厚くなっているのですが、映画館にお客さんを呼ぶための宣伝戦略に関しては、まだまだ学ぶべき事、チャレンジすべき事が多くあると思います。その中で「あの花」に関しては64館規模で是非トライしてみようという事になったという事です。

『あの花』はチャレンジングな作品

――それでは『あの花』は、ある意味チャレンジの作品でもあると。

そうですね。自社配給では今まででいちばん館数を開けた作品ですから。その結果がよかったのか、悪かったのかによって、今後もそういった公開館数が維持されるのか、それともやはりもともとの30~40館規模に戻したほうがいいとなるのか。もしくは今後、100館ぐらいに挑戦しようということになるかもしれません。アニプレックスとしては『あの花』が試金石となるでしょうね。

――もちろんコアなアニメファンの方は劇場に来てくださると思いますが、さらにそこから客層を広げないといけなくなります。

逆に言えば、『あの花』だからこそ64館にチャレンジできたとも言えます。作品性からしても、コアなアニメファンはもちろんのこと、グレーゾーンのお客さま。たとえばサブカルチャーが好きなお客さまや、ふとしたきっかけから見たというお客さままで、いろいろな層を巻き込める作品だと思ったのです。

ですから、いかにしてそこの層に届けるかということはずっと考えてきました。たとえばテレビ版の放送翌月、5月に『CUT』というカルチャー雑誌で特集を組んでもらったり、西武鉄道さんとコラボレーションをしたり、マスに向けてということも意識しながら、宣伝をしてきました。それはやはり『あの花』の作品性から考えついたことです。

公開の前半は『あの花』をずっと愛してくれているコアなファンで埋め尽くされると思うのですが、それがどんどん広がっていって、2週目、3週目となっていくときに、どういう層の方々に『あの花』を見てもらえるのか。その結果を見届けるのが楽しみです。

――『あの花』が試金石であるということを踏まえて、アニプレックスさんの今後のアニメ戦略はどのようになるとお考えですか?

もちろんうちはパッケージビジネスが主軸の会社なので、ブルーレイ、DVDを買っていただける、本当にコアなアニメファンに対して引き続き受け入れてもらえるような作品作りをしていくことが、ある意味軸となります。『あの花』がすごく広がったからといって、こういう広がりを最初から求めてもしょうがない。いろんな結果が積み重なった結果、『あの花』がここまで大きくなってきたと思うので。僕自身はやはり、一つひとつの作品のターゲットをちゃんと見据えて、そのファンの人たちが面白いと思ってもらえるような作品作りを、真摯にやり続けていくしかないと思っています。

(撮影:梅谷 秀司)

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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