今の年金受給者は将来世代に譲歩するのか 「連合」の退職者団体が強硬姿勢から転換

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ここまで説明すれば、退職者連合が「名目下限方式の堅持」という言葉を削除したことの重要性がおわかりだろう。退職者連合はあくまで年金受給者を会員とする組織であり、名目下限方式の「撤廃」を自ら積極的に叫ぶということはあり得ない。だが、マクロ経済スライドの在り方を協議する際には誠実に対応するという形に方向転換を図ったわけだ。

日本退職者連合の菅井義夫事務局長は、「マクロ経済スライドを導入するとき、給付は名目では減らさないと約束したから、われわれも将来のためにやむなしと導入を了承した。一方、その後も少子高齢化や雇用の悪化が進む中で、いつまでも『名目下限方式の堅持』で突っ張っているだけでいいのかという内部の声はあった。給付金額の低下は消費購買力、生活水準の低下を意味するから極力避けたいが、持続性という観点から将来の高齢者のために現在の高齢者も責任を持つ必要がある」と語る。

要望内容の見直しを担当した全日本自治体退職者会の川端邦彦事務局長は「(保険料収入のベースとなる)雇用改善や少子化対策をまずはしっかりとやってくれというのが政府への要望。そのうえでどうしても孫やひ孫の年金水準が所得代替率5割を維持できないということになれば、われわれは相談に応じる、門前払いにはしないと言っている」と話す。

その一方で、「年金受給者団体がこのような姿勢を取ることには、会員からも今後異論が噴出する可能性はある。今回の見直しはしかるべき手続きを踏んで総会で決議したが、これは『始まり』であって、これから議論は高まるだろう」(川端氏)とも予想する。

ほかの高齢者団体はまだ一歩も譲らないが

ほかの高齢者団体を見渡せば、全日本年金者組合(共産党系)はマクロ経済スライド自体を違憲だとして「年金引き下げ違憲訴訟」を展開している。また、最大の年金受給者団体である全国年金受給者団体連合会は「名目下限堅持」を掲げている。

2004年改革後の財政構造から、将来の年金給付水準を引き上げることこそが「抜本的改革」となる日本の公的年金制度。そのためには、非正規雇用への厚生年金適用拡大や基礎年金の拠出期間延長などと並んで、マクロ経済スライドのフル発動化が重要な改革メニューとして指摘されている。これに対する最大の「抵抗勢力」であるはずの年金受給者団体で起きた変化。それは一見地味なニュースだが、将来の年金改革に向けて、政治家や政府の大きな援軍になる可能性を秘めている。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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