今の年金受給者は将来世代に譲歩するのか 「連合」の退職者団体が強硬姿勢から転換

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これはどんな結果をもたらすのか。給付水準の調整が遅れた分、その割を食うのは将来の高齢者(現役世代)だ。先に説明したように、公的年金制度は約100年間の収入総額を固定し、この1つのパイを現在の高齢者と将来の高齢者で分け合う構図となっている。収入総額は変わらないのに、現在の高齢者の取り分の減り方が予定より少なければ、その分、将来の高齢者の取り分が減ることになる。

付け加えれば、将来の給付水準が経済成長のケースによって変わってしまうのも、この名目下限方式のためだ。先ほど、順調なケースでは50%を上回り、低成長ケースでは50%を切ると書いたが、要するにこれは低成長時にはデフレや低インフレによってマクロ経済スライドが発動されない年が多いので、その分、給付水準の調整が遅れ、将来の高齢者の給付にシワ寄せが行って所得代替率がより低くなってしまうのだ。名目下限方式が撤廃されれば、将来の所得代替率予想が経済前提に左右されることはなくなる。

将来の給付を守るには「名目下限方式」撤廃を

政府は昨年可決された年金改正法案で、デフレや低インフレでマクロ経済スライドが発動できなかったときは、のちに物価上昇率が確保された年にその分を含めた調整を行う「キャリーオーバー方式」を導入した。しかし、まとめてマクロ経済スライド調整を行えるほどの高い物価上昇率が達成できるのか、発動できなかった年とキャリーオーバーで発動された年の間の未調整分については解消されないなど、重要な問題点が指摘されている。

デフレや低インフレに関係なくマクロ経済スライドをフル発動すること、つまり名目下限方式の撤廃は、将来の高齢者の給付水準を守るために不可欠なものだ。厚生労働省もその必要性を強調するが、これをためらっているのは高齢者の票を気にする政治家だ。昨年、キャリーオーバー方式という中途半端なものをこわごわと導入した与党だが、それも現在の高齢者の反応を気にしてのことだった。

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