北朝鮮問題は、どうすれば解決に向かうのか 日本にとって悪夢のシナリオもありえる

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一方で、論文のほかの論旨には怒りを覚えた。在韓米軍という対抗力が撤収すれば、朝鮮半島は「中立(non-aligned)」の状態にはならず、中国の衛星国と化すことは火を見るより明らかだ。この論者はそんなことも見通せない愚か者なのか、いやそうではなく、不都合な真実は見ぬふりをしているのだろうと感じた。

「在韓米軍撤退」――。そうなるかもしれないが、日本にとっては国の安全保障の基本的前提条件の大転換になる。1世紀ちょっと前には、「朝鮮半島が清朝やロシアの支配下に入るのは、国の安全保障上許容できない」として、2度にわたって戦争をしたくらいなのだから。

日本も米国も北の核・ミサイル問題については、毎度「中国の努力を求める」とお経を唱えてきたが、その先に待ち構える事態を少し真剣に考えると、そう唱えて「事足れり」とする「思考停止」は止めなければならない。スウェイン氏のような論文が出るところを見ると、トランプの米国では「お経を唱えて事足れり」のモードが変わりつつあるのかもしれないが、そんな談合が米中両国の間だけで内密に進められたら、日本はたまったものではない。

北朝鮮への経済協力も一つの手段

そういうことが起きないようにするために、日本は何をすべきで、何ができるだろうか。「いの一番」に心掛けるべきことは、日本を蚊帳の外に置いて重大な合意・決定が行われることのないよう、朝鮮半島問題の討議の場に積極的に関与する(ことあるごとに首を突っ込む)ことだろう。このことを考えたとき、決定的な役割を果たす中国との関係はもっと改善し、突っ込んだ話ができるように改めないと、わが国の安全を守ることができないと思う。また、具体的には中国が進めてきた「6カ国協議」を再開・活性化する努力が必要だし、そこで「日本も呼ぼう」と思わせるような建設的な役割を果たさないといけないだろう。

その先に日本が採りうる手段は何だろう?

ざっくり言えば二つだ。一つは何らかのかたちで北朝鮮問題が解決を見た後の北朝鮮地域の経済を復興、開発するための経済協力だ。そう言うと、「なぜ朝鮮半島(なんか)のために、カネを出す必要があるのか、かかわらないでおくのがいちばんだ」という反論があるかもしれないが、事は日本の安全保障の根幹にかかわる。「6カ国協議」的な話し合いに日本が絡んでいくためのカードは、基本的にはこれしかない。

このカネは、出しようによっては捨て金にはならないし、捨て金にしない出し方をするべきだ。北朝鮮の生活水準、インフラを含む開発レベルは、いまの東北アジア地域の平均から見て絶望的に低い。ということは、ここで行うインフラ整備などの経済効果は、波及効果からみて、ほかの北東アジア地域で行うよりずっと高いということでもある。同じく開発水準が低いが人口密度も低い中央アジアの砂漠地帯で行われている「一帯一路」事業と比べても、ずっと高いはずだ。

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