北朝鮮問題は、どうすれば解決に向かうのか 日本にとって悪夢のシナリオもありえる

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現体制に代わる新体制のあり方が、中国として受け入れ可能なものになる見通しが立つことも重要な必要条件になるだろう。たとえば「事態」後の朝鮮半島が完全に非核化されることは必須だろう。

見当が付かなくて頭を抱えることになりそうなのは、新体制の構築の仕方だ。金正恩を抹殺したり放逐したりすれば、後は民主選挙で新体制を決めるのか? それは今の中国共産党にとって「冗談も休み休み言え」な話だろう。そうするわけにいかないなら、金正恩を南北朝鮮連邦新国家の大統領くらいに据えてやらないといけないのか……これはどれだけ考えても解答が得られそうにない。中国がレジーム・チェンジに踏み切れない最後の障害になるだろう。

二つ目の条件は…在韓米軍撤退!?

もう一つ、中国がレジーム・チェンジに踏み切るための重大な必要条件になるのは、上述した米韓相互防衛条約や在韓米軍の取り扱いだ。私がいちばん不安に思うのはこの点だ。

核弾頭を搭載した北のICBM(大陸間弾道ミサイル)は、悪くするとトランプの任期中にも実用段階に至る見込みのようだが、米本土を核攻撃されるリスクが増大していくと、トランプが追い詰められた心理になって「中国に武力行使を懇願する」ことはないだろうか。中国が究極の決断として応諾する場合は、疑いなく「事態収拾後の在韓米軍の撤収」を要求するだろう。そのとき、「アメリカ・ファースト」のトランプが「米本土が核攻撃を受けるリスクが解消できるのならば」とばかり、その要求をのむ可能性はないだろうか。

そう言うと「さすがにそれは妄想だ」と笑われるかもしれない。しかし、私がワシントンに滞在していた2017年3月、米国外交専門誌『フォーリン・ポリシー』に米シンクタンク、カーネギー国際平和基金のマイケル・スウェイン研究員の手になる論文「米中両国は『一つの韓国』政策を必要としている」が載った。

北の核問題を根本的に解決するためには、中国によるこれまでとは異次元の関与が必要だが、「米国が同盟国である韓国主導の統一を画策して中国の利益を脅かすのではないか」という不安・不信感が障害となっている、この根本の障害を取り除かないかぎり、いくら制裁を強化しても、アメを提供しても北の核問題は解決しないので、中米両国は「統一された、中立(non-aligned)の朝鮮半島」を未来像として共有すべきであり、そのために米国は在韓米軍を撤収する用意をすべき、といった主張が骨子の論文である。

この論文を読んで目が醒めたことには感謝しなければならない。「北朝鮮問題の解決」のためには、在韓米軍撤収、米韓相互防衛条約解消といった決断も必要になる。米国にはそういうことを論文に公然と書く専門家がいる。そんな論者を1人見つけたら、背後には「同感だ」と思う識者が数十人いると思ったほうがいい。もちろんトランプ政権の安保・外交を主導するジェームズ・マティス国防長官やハーバート・マクマスター補佐官ら軍人中心の主流派が、そんな提案に軽々に乗るはずはない。

しかし、この提案に乗らなければ、事態はじりじり悪化の一途をたどるだけだろう。「北朝鮮問題には出口がない」――。これまでみな感じてきたことだが、中国が本気になるなら話は別だ。そして、「中国を本気にさせるには在韓米軍問題で取引することが必要条件の一つになる」――。突き放して考えると、それは事実だと私は思う。

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