カーブアウトしたあとに経営が目指すのは、当然ながら企業価値の向上。支援する第三者も事業の切り出しに際して事業価値を算定。将来的なのびしろを感じたから出資をし、カーブアウトが実現したのです。価値向上のためには、従来の職場環境を大きく変える可能性も出てきます。そして、当事者は環境変化の前に選択を迫られることになります。
・第三者とつくる新しい会社に転籍する
・退職する
こうなったときに、どうすべきでしょうか?
職場環境を変えないことは難しい
取材したシステム会社のSさんは物流系子会社に所属していましたが、そのシステム部門がベンチャー企業に売却されることになりました。新たに立ち上がる会社への転籍をするか、人事部から判断を求める面談を受けました。人事担当は、
「(当面は)職場環境は何も変わりませんよ。それは、経営同士で約束されたことですから」
と安心するよう促すような言葉を投げかけられました。では、どうしたのか。Sさんは仕事そのものを変えることを望んでいなかったので、転籍をすることにしました。ちなみに同僚の大半は人事部と同じような面談を受けて、転籍をしました。ただ、数人だけ
「変わらないはずはない。自分は辞める」
と退職した人もいました。こうした判断をした人に対し、同僚たちは「拙速すぎる」と批判的でした。確かに新しい経営陣がやってきても、当初は何も変わりませんでした。加えて、処遇面は改善されて、オフィスもアクセスのいい一等地に移転。むしろ、働く環境がよくなったと喜んでいました。ところが状況は徐々に(想定外の方向に)変化していきました。新会社が立ち上がり、1年を経過したタイミングで全社員に経営状況の発表が行われました。こうした情報の開示は前の会社ではありえないこと。子会社の一事業部門なので、誰も業績に関心がなく、理解していませんでした。ところが、開示された業績は昨年度を大きく下回る状況であったようです。この情報の開示では、
「ハネムーン気分は一掃しなければならない」
と経営陣の厳しいコメントが書かれていました。よく米国の大統領の就任当初をハネムーン期間と呼び、国民やマスメディアは不慣れな時期は政権をたたくのは控えめにするなど、あまり過激な対応をしないようにします。それと同じ状況で、まったりしすぎていると言いたかったのでしょう。
実際、この経営状況の報告以降、経営陣のコメントは「このままではまずい」「大きく変わる必要がある」と大きく変化していきました。そして、人事制度が変わり、これまで社内で行われていた会議ルールや報告書の作り方など、さまざまな面で見直しが行われました。おそらく大企業の子会社の一部門としてノンビリと仕事ができる環境であったのが、ベンチャー企業の「成果主義」「スピード経営」の職場環境に変わろうとしているのです。
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