北朝鮮危機の最大リスクはトランプ大統領だ 金正恩が予期せぬ行動に出ることはないが…

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一方、米国内では政府に対し、北朝鮮をさらに揺さぶるような積極的な対策を求める声が増しており、韓国を拠点とした金正恩支配を弱体化させる試みの支援も行われている。問題は、いかなる革命であれ(それが、外から支援を得ているかどうかにかかわらず)、それ以外の理由であれ、金正恩政権が崩壊したときに、核兵器の脅威はさらに強まるということだ。

今年の初め、筆者は元米政府高官が出席する討論会で議長を務めた。その討論会では、金政権が崩壊した場合に何が起こるかについて意見を交換したが、出席者たちの結論は厳しいものばかりだった。もし、金正恩が自身の失脚や、殺害の可能性を感じたら、ほぼ確実にミサイルを発射するというのが共通意見だったのである。ミサイルの攻撃目標として考えられるのは日本であり、到達可能であれば、それが米国本土となる可能性もある。

トランプ大統領の反応は予測不可能

日本と韓国に拠点を置く米国の弾道ミサイル迎撃システムは、この種の危険に対して最後の防衛策を講じることになっている。しかし、こうした技術は依然、初期段階にとどまっており、急速に下降する弾道ミサイルを撃墜することは不可能ではないにしても困難であることに変わりはない。何発ものミサイルを撃ち落とすことは、容易ではないのだ。

そう考えると、ドナルド・トランプ大統領による「炎と激しい怒り」発言と、軍事的オプションが「臨戦態勢にある」といった発言によって一段と激化している「一撃」に対する一連の憶測も納得がいく。米国の安保関係者の中には、すでにほかの選択肢はないと考えている人がいれば、それすらも遅いと感じている人もいる。

朝鮮半島における戦争の危険性、特にソウルを標的とした北朝鮮の砲撃演習は、ビル・クリントン元大統領やジョージ・W・ブッシュ元大統領、バラク・オバマ前大統領が北朝鮮を攻撃する可能性を下げるのに十分だった。そして、北朝鮮は同じことを、トランプ大統領に仕掛けているのである。

奇異で予測不能なトランプ大統領がこれを受けて、どういう行動に出るのかは、本人すらわかっていないかもしれないし、トランプ政権の国家安全保障チームの意見が割れている可能性もある。トランプ大統領による言動は、国内の政治不和から注意をそらそうとしているだけだ、と考える人もいるだろう。

実際に大惨事が起こった場合、米国は行動を起こしたこと、あるいは、もっと早く行動を起こさなかったことを後悔するかもしれない。しかし、現実においては、米国がつねにこうした悩みにさらされることは、避けられないだろう。というより、驚くべきことは、ここまでこうした悩みに直面してこなかったことである。

著者のピーター・アップス氏はロイターのグローバル問題のコラムニスト。このコラムは同氏個人の見解に基づいている。
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