欧州産「生ハム」が日本で一段と身近になる日 イタリアが求めるのは量より質の理解

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実は、パルマハムの製造法を忠実に国内で引き継いで、上質な生ハムを作る男性がいる。岐阜県に暮らす、多田昌豊さん(45)だ。大学で食品加工学を専攻していた多田さんは、卒業論文で「パルマハム・サンダニエレハムの化学的微生物学的安全性」について研究。その際、パルマハムの旨さと伝統を引き継いだその製法に心を奪われ、2000年にイタリア・パルマに渡航し、9年間に渡ってパルマハム製造の現場で修行をした。

日本でもパルマハムの本物の素晴らしさを味わってほしいー。その思いで、パルマ地方と似た環境の地域を全国で探し回り、温度や湿度、風の質まで条件を満たし、地元で良質な豚が育てられていることを条件に候補地を絞り、7年前、岐阜県関市に工場を構えた。

「ペルシュウ」という独自の名前を付けて販売

焼印が押された正真正銘のパルマハム(写真:パルマハム協会提供)

古くから受け継がれてきたパルマハムの製法を、可能な限り忠実に守って作り上げたその生ハムを、多田さんは「パルマハム」として販売はしない。

それは、パルマハムの名がその地域、製法、伝統など忠実に守られたものでした名乗れない特別な名称だということを、現地にいたからこそよく理解しているからである。

さらに、添加物や調味料などを使ったものもすべて「生ハム」として広く流通している事情も踏まえ、あえて「生ハム」の名称を使わず「ペルシュウ」という独自の名前を付けて販売することにした。その名称への細やかな気遣いは、脈々と受け継がれてきた伝統のパルマハムの伝統が、日本でも正しく広まってほしいという強い思いからだ。

「パルマハムは、本当に口の中でとろけるほどに素晴らしく美味しいものです。湿度や使用する豚の品質にパルマ地方との差こそあれ、可能な限りパルマの伝統製法を受け継いで塩のみで熟成させたものが、ペルシュウです。私が感動したパルマハムとは全く別物ですが、せめて、骨を抜きたてのみずみずしいペルシュウを食べていただくことによって、日本の人たちのパルマハムへの認識を変えたかった。今、日本でも生ハムの人気が高まり、わざわざ工場に足を運んでくださるお客さんも凄く増えています」

日本の食卓にもスライス仕立ての新鮮なパルマハムが、より手軽に登場する日も近いかもしれない(写真:パルマハム協会提供)

年間600本しか作れない貴重な逸品。その思いに共感し、全国約20店舗のイタリアンレストランなどが、多田さんの作る「ペルシュウ」を提供し始めている。

長年に渡ってパルマの地で販売してきたイタリア人男性も、関税が下がることよりもむしろ、伝統的なこだわりが日本にしっかりと伝わることを願っていると話す。

「パルマハムは、他では決して踏襲できない製法で、より厳しい検査基準を持って作れている。だが、ヨーロッパを出てしまえば、パルマハムも他の生ハムも混同して理解されていることが少なくない。ただ、値段の張る商品としてみなされてしまうのでは、産地のこだわりが伝わらなくて悲しいだけだ。パルマハムの名前が正しく理解されて、そのこだわりが伝わるのであれば、作り手冥利につきるだろう」

ただ、売れればいいというわけではない。産地ならではのこだわりが、海を隔てた海外にも正しく伝わればと願う生産者の熱い思いが、ヨーロッパの地には根付いていた。

日本でも、EUなど諸外国の制度を参考に、2015年にようやく地理的表示保護制度(GI)がスタートした。夕張メロンや神戸ビーフなどのこだわりの産品は今、そのブランド力で世界に名乗りを上げ始めている。ブランド力で挑む産品が、今後日本からもさらに増え、農業や畜産業の活性化に繋がることが期待される。

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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