欧州産「生ハム」が日本で一段と身近になる日 イタリアが求めるのは量より質の理解

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日本で、チーズやワイン、生ハムなどさまざまなイタリアの輸入食材販売を手掛ける商社の担当者は、こう打ち明ける。

「ワインは100円弱の減税効果のみですし、チーズも効果は限定的かもしれません。うちで言えば、高級なハム類への影響が大きいかと考えます。おそらく、現在2000円ほどで販売している生ハムの盛り合わせが、関税撤廃後には150円くらい割り引かれるのではないでしょうか」

チーズやワインよりも、生ハムにかける期待が大きいようだ。

産地を歩くと…パルマハムとは

マエストロ・サラトーレと呼ばれる熟練した塩漬け職人が、絶妙な加減で塩を振り熟成される(写真:パルマハム協会提供)

では、その生産地はどう受け止めているのだろうか。世界3大ハムの一つ「パルマハム」発祥の地、イタリア・エミリアロマーニャ州に位置するパルマを訪ねた。日本でパルマの地名は、サッカーの中田英寿選手がセリエAのACパルマに在籍したことでピンと来る人も多いかもしれないが、実は世界では美食の地としても知られている。

「日本人は欧州産チーズを真に楽しめていない」(8月4日配信)でも取り上げた、パルミジャーノ・レッジャーノの発祥の地でもあり、最高級のプロシュットで名を馳せる「パルマハム(プロシュット・ディ・パルマ)」を生み出した産地でもある。豚の生育には最適な風土と気候で、秋になると豚たちは自然の恵みであるどんぐりや栗を食べるため、その身は丸々と滋味たっぷりに育つという。

逞しく育った豚のもも肉は、マエストロ・サラトーレと呼ばれる熟練した塩漬け職人によって、わずかな塩が振られ、熟成される。一切の保存料を使わないことが、パルマハムの特徴だ。さらに、飼育中にパルミジャーノ・レッジャーノを作る際に出るホエー(乳清)を飼料の一部として与えられるため、奥深い独特の風味も出る。最初の塩漬けから最低1年間、最高3年間にわたって熟成させることが、法律によって厳格に定められている。

馬の骨でできた針を刺して、厳密に品質をチェックする専門の検査官(写真:パルマハム協会提供)

しかし、こうした厳しい製造過程を経てもなお、すべてがパルマハムと名乗ることができるわけではない。熟成の済んだものを今度は、パルマハム品質協会という独立機関の専門家が、一つひとつ厳しくチェックする。ハムの5カ所に馬の骨でできた針を刺し、香りを確かめ、品質が認められたもののみに、正真正銘のパルマハムであることの証しとして、遂に「PARMA」の焼印が押される。まさに、そのパルマの地でしか作れない、貴重な一品なのだ。

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