東武鉄道「51年ぶりSL復活」、感動の舞台裏 全国の鉄道会社が協力して「鉄道員魂」を継承

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
JR西日本の長門市駅から移設された転車台に乗るSL(撮影:尾形文繁)

他社の協力を受けているのは車両だけではない。下今市駅と鬼怒川温泉駅に設置された転車台はJR西日本の長門市駅(山口県)、三次駅(広島県)からの移設だ。東武にはSLの経験者がすでにいないため、乗務員や検修員の養成もJR北海道、真岡鉄道(栃木県)、秩父鉄道(埼玉県)、大井川鉄道(静岡県)の協力により各社で行った。営業一番列車の機関士を務めた前出の仲沼さんも秩父鉄道で約1年間の研修を受けたという。

全国の鉄道各社に協力を求めることについて「実は、最初はお願いしても厳しいところがあるかなと危惧していた」と浜田さんはいう。運行エリアが完全に異なるJR北海道などはともかく、真岡鉄道や秩父鉄道は同じ関東地方の鉄道会社。東武がSLを運行すれば「ライバル」となる可能性があるからだ。

だが、各社の反応は「SLを運行する会社が増えること、特に大手私鉄の東武が参入するのは非常にありがたい」との答えだったという。東武のSLに注目が集まることでSL自体への注目度が高まり、各社のSLにもその影響が及ぶという相乗効果が期待できるためだ。浜田さんは「SLを運行する各社をつなぐパイプになりたい」と語る。今後、SL運行各社によるコラボなどが広がる可能性も大きいだろう。

「採算は十分に取れる」

東武によると、今回のSL運転に投じた費用は機関区や検修庫の新設などを含めて約30億円。多額の投資だが、根津社長は「SLに乗っていただくこと自体はもちろん、乗りに来る際に東京から利用してもらう特急列車、さらに関連のグッズ発売などを含め、トータルでは十分に採算は取れると見ている」と語る。

下今市駅構内で開かれた出発式典(撮影:大澤 誠)

運行開始にあたって行われた出発式典で、根津社長は「SLに関する技術・技能をレガシーとして継承するために『大樹』が役立てばこの上ない喜び。支援いただいた各社の『鉄道員魂』を継承することが責務であると考えている」と述べた。

地域の観光活性化や鉄道産業遺産の保存、そして線路が通じる福島県や東北の復興への願いを乗せ、SL「大樹」は日光・鬼怒川を走り出した。列車名の「大樹」の名は、日光東照宮から連想される「将軍」の別称・尊称で、沿線地域とともに力強く育ってほしいとの思いを込めているという。地域の観光振興、そして鉄道文化遺産としてのSLを継承していくうえで「大樹」が文字通り大きな幹から枝を広げる大樹のような存在に育っていくかが、これからの課題だ。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事