東武鉄道「51年ぶりSL復活」、感動の舞台裏 全国の鉄道会社が協力して「鉄道員魂」を継承
東武のSL復活プロジェクトが発表されたのは、運行開始の日からちょうど2年前の2015年8月10日だった。東武は首都圏の鉄道としては比較的遅い1966年まで蒸気機関車を使用していたことで鉄道ファンに知られる存在だが、まさかのSL列車 復活運転、しかもJR北海道が運行していたC11形207号機を借り受けての運行というニュースは鉄道ファンらを驚かせた。
鉄道事業本部SL事業推進プロジェクト部長の浜田晋一さんによると、SL復活の構想がスタートしたのはそれより2年ほど前の2013年ごろ。同社の中期経営計画に「日光・鬼怒川地区など沿線観光地の活力創出」が盛り込まれ、その中で浮上したのがSLの運転だったという。
近年各地で増えている「豪華観光列車」ではなくあえてSLとしたのは「鉄道産業文化の保存と活用」が東武ならではの売りとなるためだ。同社の根津嘉澄社長によると「そういうもの(豪華観光列車)を走らせるという案もあった」という。だが、同社は1989年に自社の歴史的車両などを保存・展示する「東武博物館」を開設しており「鉄道文化遺産の保存には長い経験がある」(浜田さん)。その点を生かし、鉄道会社ならではの観光活性化策として考えられたのが、SLの復活運転だった。
全国の鉄道各社が協力
この列車の大きな特徴は、全国の鉄道各社の協力によって成り立っている点にある。SLのC11形207号機は現役時代から北海道を舞台に活躍した機関車で、JR北海道からの貸与車だ。SLを東武線での運転に対応させるためにATS(自動列車停止装置)を積む車掌車はJR貨物とJR西日本、客車はJR四国、ディーゼル機関車はJR東日本からの譲渡と、JR各社の車両が勢ぞろいだ。
当初、主役となる機関車については静態保存されている車両を整備して復元することを念頭に、保存機関車復元の経験がある鉄道各社に相談していたという。だが、元になる機関車の確保をどうするかに加え、技術面での難しさについても課題があった。そんな中、JR北海道がSLの運転を縮小。タイミングが合致し、同社保有のC11形207号機を借り受けることになった。
C11形207号機が住み慣れた北海道を離れ、海を渡って東武線上にやってきたのは2016年の8月19日。翌9月には、今後の安全を祈願してボイラーに点火し、石炭を投げ入れる「火入れ式」が行われ、SLに「魂」が吹き込まれた。
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