男性不妊は様々な原因がある
――男性不妊には、どのような原因があるのでしょうか。
荻窪病院泌尿器科では、2011年までの3年間に診察した男性不妊の患者259人について統計的なデータをまとめました。それによると、215例に無精子症、乏精子症、射精障害など、何らかの異常が認められました。しかし、原因については、残念ながら不明とせざるを得ない例も多くあります。
当科は、他院の産婦人科・不妊クリニックや、泌尿器科からの紹介が多いため、無精子症の患者が多く集まる傾向があり、約3割の77例にのぼっています。無精子症は精管や精巣上体が詰まっている「閉塞性」と、精巣そのものに異常がある「非閉塞性」に大別されます。閉塞性では、幼少時に受けた鼠径(そけい)ヘルニア手術の際に精管を誤って切断されたり、避妊手術としてのパイプカット(精管結紮術)を受けたケース、生まれつきの精管欠損症などの原因が見られます。一方、非閉塞性の原因には、がんの化学療法を受けたケースや、通常はXYの性染色体がXXYとなっているクラインフェルター症候群をはじめとする染色体異常の疾患、陰嚢まで精巣が降りてこない停留精巣、下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン不全の「低ゴナドトロピン性性腺機能低下症」(MHH)などが挙げられます。
――無精子症以外では、男性不妊の原因にはどのようなものがありますか。
当科の患者の約3分の1を占める乏精子症の原因としては、陰嚢内に静脈瘤ができる精索静脈瘤が目立ちます。精子無力症では精管が炎症を起こす精路感染症が原因のトップです。精索静脈瘤は、健常男性でも1~2割、不妊男性の4割に見られ、触診とエコー検査で確認します。他には、ED・射精障害、射精時に精液が膀胱に向けて逆流する逆行性射精といった射精の問題が全体の2割程度を占めています。
ホルモン異常も男性不妊の原因
――化学療法も男性不妊の原因になるのですね。
がんや白血病の治療に抗がん剤を大量に使ったり、放射線療法を受けた場合には、精巣の造精機能が回復しないことも多くなります。ですから、私ども男性不妊専門医は、中学生以上で精子を採取することができるなら、抗がん剤治療をする前に、精子を凍結保存することも検討すべきだ、とがん治療医に呼びかけています。
――MHH(男性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)治療研究会に参加されていますが、MHHとは、どういう疾患なのでしょう。
MHHは、下垂体から分泌されて精巣に働きかけるゴナドトロピンの分泌不全です。ゴナドトロピンにはLHとFSHの2種類があります。
男性の場合、いずれも精巣に働きかけて、LHは男性ホルモンのテストステロンを分泌を促し、FSHは精子形成を促進します。このゴナドトロピンが不足するMHHの患者は、第二次性徴が発現しなかったり、途中で停止・退行してしまうので、精巣・陰茎の発育が不十分だったり、陰毛が生えないといった、第二次性徴の遅延が起こります。また、性欲低下、勃起不全、射精障害などの性機能障害も見られます。精巣が小さいままでは、精子を造る機能が働かないので、ほぼ全例に無精子症がみられます。MHH発症には、遺伝性の要因があることが明らかになりつつあります。その代表例であるカルマン症候群は、男子出生1万人に1人の発症頻度とされています。
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