米国株の「暴落リスク」が現実味を帯びてきた 日本株に「強烈な円高圧力」が襲い掛かる?

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秋口にかけて大統領と議会の対立が先鋭化するなど米国で政治不安が高まった場合、ダウ工業平均株価は大統領選挙後の上昇分をすべて失い、1万8000ドル程度まで下落するリスクがある。

問題は、下落した場合、大統領選挙前の水準までで止まるのかということだ。仮に大統領弾劾の動きが現実化するなどしたら、ダウ工業平均株価は1万8000ドルを大きく割り込み、底割れするシナリオも否定できない。

そもそも「金融危機10年説」という経験則(アノマリー)がある中で、すでに前回の一連の金融危機からほぼ10年が経過していることも気掛かりだ。金融市場のグローバル化が進んだことを受けて、1987年にはブラックマンデーが、1997年にはアジア通貨危機が、2007年にはサブプライム危機が発生するなど、近年は10年サイクルで世界的な金融危機が生じている。本年で前回の金融危機からちょうど10年が経過しており、このアノマリーに基づけば、グローバルな金融危機がいつ生じてもおかしくはないのである。

偶然ではない「金融危機10年説」、ノーガードの日本

しかも、このアノマリーは、単なる偶然ではないと考えられる。特にアジア通貨危機、サブプライム危機に関しては、それらが発生する2年ほど前に、FRBが利上げモードにシフトしたという事実がある。つまり米国が金融引き締めスタンスに転じることで、グローバルなマネーの流れに変化が生じ、後の金融危機につながった可能性は高いと言えよう。今回のFRBの利上げ局面は2015年12月に始まっているが、その前後からの原油を中心とする資源価格の軟調などを考慮すれば、グローバルなマネーの流れには利上げの前後で変化が生じたと判断される。

またこの7月にはカナダ中央銀行が7年ぶりとなる利上げを実施したり、欧州中央銀行(ECB)が量的緩和の段階的縮小(テーパリング)に含みを持たせたりするなど、FRB以外の主要中銀の間にも金融緩和修正の動きが広がってきた。政策が変われば期待が変わり、マネーの流れも変わる。そのことが新たに金融危機を呼び起こすリスクが、徐々に大きくなっているわけである。

仮に米国株の急落が深刻で、金融危機が意識されるような場合、FRBは一転して利下げやバランスシートの再拡大に着手し、そのショックを和らげようとするだろう。ECBもテーパリングを延期したり、場合によってはマイナス金利をさらに深掘りしたりすることで、緩和を強化する公算が大きい。

では日銀に有効な手立てが残されているのかというと、残念ながら悲観的にならざるをえない。マネタリーベースの拡大にも限界がささやかれる中で、追加の金融緩和手段として量的緩和を強化することはほぼ不可能だ。では当座預金の超過準備付利の一部に対して適用しているマイナス金利を深掘りできるかというと、金融機関の運用益を一段と圧迫することへの批判が強い中では、それも困難である。長期金利を操作目標に据えたイールドカーブ・コントロールについても、それが危機時に有効に機能するかどうかは定かではない。

このように、日銀が政策の実弾を使い果たしたきらいが否めない中では、日本の金融市場は米国株が急落した際のショックに対してこれまで以上に脆弱になっていると理解すべきだ。言わば日本経済は「ノーガード」の状態にあるため、米株の動向次第では、強烈な円高株安圧力が日本を襲うことになるかもしれない。

土田 陽介 三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部副主任研究員

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つちだ ようすけ / Yosuke Tsuchida

2005年一橋大経卒、06年同修士課程修了。13年同博士課程単位取得退学。株式会社浜銀総合研究所を経て現職。 欧州を中心にロシア、トルコ、新興国のマクロ経済、経済政策、政治情勢などについて調査・研究を行う。主要経済誌への寄稿、学会誌への査読付き論文多数。著書は『ドル化とは何か‐日本で米ドルが使われる日』(ちくま新書)『図説ヨーロッパの証券市場(2020年版)』(分担執筆、日本証券経済研究所)『脱炭素・脱ロシア時代のEV戦略 EU・中欧・ロシアの現場から』(分担執筆、文眞堂)。 関東学院大学経済学部非常勤講師。

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